序章 死神の住む街

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 この街には死神が住んでいる。  いや、正確には“死神”と呼ばれる誰かが住んでいる。  妻を娶り、その妻が次々と亡くなることから、いつからか“死神”と呼ばれるようになったのだ。  名前も容姿もわからないその人の噂を、街の人たちは面白おかしく広めている。  どうも海軍に出入りしているスパイだとか、裏であくどい商売をしているようだとか……。  志乃も以前は、まるで怪談話でもするように、女学校の友人たちと騒ぎながら話したものだ。  志乃たち女学生の興味は専ら死神の姿のことで、背は高く般若のような大男だという友人もいれば、よぼよぼのおじいさんだという友人もいた。  でも今となっては、そんな身勝手な噂話をしていた頃が懐かしい。  だって今の志乃には、決してそんな話はできない。  夢か(うつつ)かわからなかった死神の存在は、現実問題として志乃の目の前にあるのだから。
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