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第十一章:卒業の章①
翌日、卒業式当日がやってきた。晴れ渡る空の下、校庭には式典の準備が整えられ、卒業生たちはそれぞれの思いを胸に秘めて集まっていた。祐介、凛、信太郎、彩の四人も、制服を着て胸にコサージュをつけ、それぞれの席に座っていた。
式が始まり、校長先生の祝辞や在校生代表の言葉が続く中、四人はそれぞれの思い出やこれからの未来に思いを馳せていた。壇上でのスピーチが終わり、卒業証書授与が始まると、順番に名前が呼ばれていった。
「相川祐介」
名前が呼ばれた祐介は、一歩一歩をしっかりと踏みしめながら壇上へと向かった。手渡された卒業証書をしっかりと受け取り、深くお辞儀をした。その姿に、凛、信太郎、彩の三人は誇らしげな笑顔を浮かべた。
続いて凛、信太郎、彩の名前も呼ばれ、それぞれが卒業証書を受け取った。四人は壇上から戻るとき、互いに目を合わせ、微笑みを交わした。
最後のホームルームが終わり、祐介と凛はグラウンドへと続く大階段の端っこ、一番上の段に腰を下ろしていた。新しい季節の訪れを感じながら、祐介はこの3年間の思い出をしみじみと振り返り始めた。
「ずっと信太郎と一緒だったな」
と祐介は遠くを見つめるように話し始めた。
「あいつ、運動神経良いくせに体育の授業でドジばっかりやってさ。覚えてる?サッカーの試合の時、自分のゴールに全力でシュート決めたり。みんな大爆笑で、あいつ顔真っ赤にしてさ。『オウンゴールキング』ってあだ名までついちゃって。」
凛は微笑みながら頷いた。
「信太郎らしいね。」
「その後、先生に呼ばれて、必死に『わざとじゃないんです!』って言い訳してたのも面白かったな。みんなの前で土下座までして、あいつ本当にアホだな。」
凛はくすっと笑った。
「それで、去年の秋、お前と仲良くなってからもっと楽しくなった。文化祭の時も、一緒に準備して本当に楽しかった。お前がみんなと協力してくれて、おかげで大成功だった。」
凛は少し照れくさそうに微笑み、
「ありがとう」
とだけ言った。祐介の表情が少し真剣になり、声を低くして言った。
「実を言うと、去年の秋、お前のことが好きで悩んでたんだ。その時、信太郎がすごく支えてくれてさ。俺が打ち明けた時、何の迷いもなく俺を受け入れて、隣にいてくれたんだよ。それがどれだけ心強かったか、今でも忘れられない。」
「分かるよ」
「あいつがいなかったら、俺どうなってたかわからない。信太郎には本当に感謝してる」
と言い、祐介は目を細めた。
話の途中で祐介はふと凛の首元にシルバーの細いネックレスがかかっていることに気付いた。
「あれ、ネックレスなんてつけてたっけ?」
と尋ねた。凛は一瞬戸惑いながら、
「ううん、今日初めてつけたんだ。お父さんにもらったの」
と答えた。
「あの親父さんが?」
「うん、いつもみたいに部屋で本を読んでたら、急にドアをノックする音がして、父さんの声が聞こえてきたんだ。『明日、卒業式なんだな』って。父さんとはほとんど会話なんてしてなかったから、びっくりして。いきなり『明日のために買ってきた』って言って、そのまま何も聞こえなくなって。」
「それでどうなったの?」
「ううん、それだけ」
父親が去った後、凛はドアを開けてみると、小さな箱が置かれていた。
「中を開けるとペンダントが入っていたの」
と凛は説明した。
「それ、ペンダントだったんだ?」
「うん、これ」と凛は服の下に隠れていたペンダントの先端を取り出して見せた。それは細いシルバーの紐の先に小さな一粒の真珠がついている、とても可愛らしいものだった。
「へえ、お父さんセンスいいじゃん」
と祐介が感心すると、凛は照れ笑いしながら
「そうかな」
と答えた。
祐介は凛の首元の真珠の裏に手を伸ばしてじっくりと見つめた。その瞬間、凛は祐介の手が首元に触れたことでドキッとしたが、その感情を表には出さなかった。
凛は静かに口を開いた。
「祐介、信太郎のことが好きなんだね。」
祐介は驚いて、なんだよ急に、と言いながら手を引っ込め、
「あんなやつ、ただの腐れ縁だよ」
と言った。内心の動揺を隠そうと、努めて軽く振る舞った。
凛は穏やかに、
「でも、さっき信太郎の話をしてた時、本当に楽しそうだったよ」
と静かに言った。祐介は少し考え込むように黙り込んだ後、
「まあ、確かに、親友だからな」
と答えた。
凛は微笑みながら言った。
「きっと信太郎も祐介のことが大事だと思うよ。祐介が思う以上に」
その急な凛の言葉に、祐介は考え込んだ。その時、不思議な感情が胸の奥底に広がり、信太郎が自分をどう思っているのかについて何かの辻褄が合うような気がした。そういや…ともう少しでその感覚が掴めそうになったその時、後ろから信太郎の声が聞こえた。
「おい、二人して何してんだよ」
と言いながら、信太郎は祐介の首に勢いよく腕を回した。
「いててて、おい、離せよ」
と祐介は笑いながら抗議した。祐介は信太郎の腕を軽く叩いていたが、内心では自分でも何故かわからないほど驚いていた。
信太郎は笑いながら、
「探したぞ。あっちで写真撮ろうぜ。彩も待ってる」
と言った。
「ああ、分かった」
祐介は信太郎の腕を振り払うと、凛に
「行こう」
と声をかけた。
祐介と凛は信太郎の後を追い、三人は一緒に歩き出した。喧騒を掻き分けて進む中、祐介がさっき掴みかけていたあの感覚はまたどこかへと引っ込んでしまっていた。
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