第三章:凛の章

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第三章:凛の章

 秋から冬へ寒さが増す中で凛は自己認識と家庭内での役割についての重圧に直面していた。父は厳格で伝統的な価値観の持ち主で、凛のあり方に常に何かしらの注文をつけていた。一方で、母親はいつもより理解ある態度を示していたが、凛はこの大事な話をどう切り出すかで何日も悩んでいた。  ある週末の夜、家族がリビングで静かに過ごしているとき、凛は母親を台所に呼び出した。父が新聞に目を落としている間に、二人は少し離れた場所で話す機会を持った。 「母さん、ちょっと真剣に話がしたいんだ」 と凛は切り出した。母親はすぐに表情を柔らかくして、優しく答えた。 「何でも言ってみなさい、凛。」  凛は深呼吸を一つして、自分の心の内を率直に話し始めた。 「母さん、実はずっと自分の性について悩んでいるんだ。自分が異性愛者ではないかもしれないし、自分の性別についても確信が持てないんだ。」  母親は少し驚いた様子を見せたが、すぐに凛の手を握り、温かく言葉を返した。 「凛、それでこんなに悩んでいたのね。でも、大丈夫よ。あなたがあなたらしくいることが一番大切だから。」  凛は母の言葉に胸がいっぱいになり、涙がこぼれ落ちた。 「ありがとう、母さん。自分を偽るのはもう辛いんだ。」  母親は凛を優しく抱きしめ、ゆっくりと話し始めた。 「私たち家族は、あなたがどんなにあってもあなたを愛しているわ。父さんにも時間をかけて、ゆっくりと話していこう。あなたが安心して生きられるように、私がサポートするからね。」  凛が自分の性に関する真実を母親と共有した夜、彼はその一歩が自分自身にとってどれほど解放的であるかを感じていた。翌日、凛は祐介と信太郎にこの重大なニュースを伝えるために、放課後、公園で待ち合わせの約束を取り付けた。  公園のベンチに腰掛け、凛は祐介と信太郎に向かって深呼吸をし、昨夜の出来事を話し始めた。 「昨日、母さんに自分のことを話したんだ。すごく怖かったけど、母さんはすごく理解してくれて...」  祐介の反応は凛が予想していた以上に温かかった。彼は凛の手を握り、真剣な表情で言った。 「凛、それはすごいことだよ。お前が自分自身を正直に表現できるようになったのは、本当に素晴らしいことだ。」  この言葉を聞いて、凛はほっと一息ついた。自分の大切なことを祐介に受け入れてもらえたことに、内心では大きな喜びを感じていた。祐介に対して特別な感情を抱いていることをまだ完全には自覚していないものの、彼の一言一言が凛の心を動かすのを感じていた。  信太郎もニッコリと微笑んで、凛の肩を叩いて励ました。 「お前ならできると信じてたよ。これからが本当のスタートだな。」  三人はその日、一緒にファミレスで長い時間を過ごした。話は次第に他愛もない話題へと移り変わり、笑い声が絶えなかった。凛は時折、祐介の笑顔に目を奪われ、彼が発するどんな小さなジョークにも心から笑った。それは、祐介への感情が少しずつ彼の意識の中で形を成していることの証でもあった。
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