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第9話 水の魔女の真実2
川沿いに集まっていた多くの人々は、騎士カイロスがすぐに聖剣クトネリシカを抜くと思っていた。
しかし、彼は聖剣を抜かず、竜に少しずつ近づいていった。
なんでそこにいるのか、正確に確認しようと思ったのだ。
すると
「そうか。わかった」
よく見ると竜は母親のようで、子供も連れており、子供に川の水を飲ませていたのだった。
子供は大量に川の水を飲み干していた。
ほほえましい光景を見て、彼は微笑んでいた。
やがて、そのことは川沿いに集まっていた多くの人々にもわかってきた。
「なんだ、あの竜の子供は川の水を大量に飲んでいるぞ」
「もう、下流には水が流れなくなっているじゃないか」
「この川は人間の川だ。竜ごときが使っていいものじゃない。下流で水を取ることができなくなってしまうじゃないか」
「騎士カイロスはいつまで、あの姿を見つめているんだ。前の戦争の時と同じように、なんで聖剣でたたき切らないんだ」
すると、住民の通報で集まった国軍が集結した。
竜のことをあまり見たことの無い兵士達は気が動転してしまった。
そして、その中の若い兵士が竜に向かって矢を放ってしまった。
ギャー
子供の竜は矢が刺さった痛みに、大きな鳴き声を上げた。
そのことに親の竜は激怒した。
水竜はすぐに飛び立ち、国軍の兵士達に向かって攻撃を開始した。
騎士カイロスにはどうしようもないほど事態が悪化していた。
そのうち、彼の後ろで声がした。
「カイロス様。私がこの子供の竜の傷の手当てをします。親竜の方をお願いします」
大魔法師マーリンだった。
マーリンはすぐに念力で、子供の竜から矢を抜き、傷口に治癒魔法をかけた。
竜は国軍に向かって火炎を吐こうし、国軍は矢を放とうとしていた。
カイロスは川原を駿足で駆け、親竜と国軍のちょうど真ん中に立った。
カイロスは聖剣クトネリシカを抜き、心の中で念じた。
「高く堅固な壁、ここに現われよ」
そう言うと、聖剣を振った。
もう火炎は放たれ、無数の矢が放たれた後だった。
すると、親の水竜と国軍のちょうど真ん中に堅固で高い壁が現われた。
火炎と無数の矢はさえぎられた。
やがて、大魔法師マーリンの治癒魔法で傷が完全に治った子竜が親竜に近寄った。
親竜は子竜の姿を見て大変安心し、再び、子竜に川の水を飲まし始めた。
騎士カイロスは国軍の方に歩いて行った。
「隊長はいますか」
「騎士カイロス様。私です」
「あの竜の親子は問題ありません。ただ、親竜が子供の竜に水を飲ましているだけなのです」
「騎士様。お言葉ですが、ただでさえ雨不足で深刻な水不足が発生しています。ここで、あの竜に多くの水を飲まれると、下流の状況は最悪になってしまいます」
その時だった。
突然、空からすごく強い勢いの水が、国軍に向かって噴射された。
それは破壊力抜群だった。
騎士カイロスはそれを瞬時に感じ、聖剣を振った。
「堅固な傘よ現われよ」
国軍の兵士達の上に、堅固な傘が現われ、水の噴射を受けた。
その傘は水の噴射を見事に止めた。
空から声がした。
「ほ――ほっほ あまりエレガントな傘ではありませんね。でも、とても堅固で、機能としては合格だわ。私の雨に耐えるとはね」
空の上に浮いている水の魔女が現われた。
全身を青色系統でまとめたローブを着ていた。
「おまえ達、お帰り」
魔女はそう言うと、竜の親子は素直に飛び立ち北の空に向かった。
「あなた、姿形は騎士カイロスだけど、ほんとうは誰? 」
水の魔女はいきなり難しいことを聞いて来た。
「水の魔女、その話題はここではちょっと」
国軍の多くの兵士達がそこにいたからだった。
「あっ ごめんなさいね。今、小さな声で話せるようにするから」
水の魔女はそう言うと、いきなり空中から降下し、彼のすぐ前に立った。
「あなたの壁とは少し違うけれど、これも素敵でしょう」
魔女はそう言うと、魔法の杖を国軍の兵士達に向けて振った。
すると、そこには、滝のような水の無数の流れ、水の壁が現われた。
「これならば聞かれませんね。お話します。僕は異世界転生してきました」
「そうね、知ってたけど。それに、あなた1人だけで来たわけではないのでしょう」
「はい。もう1人、私の妻と一緒に来ました」
「知ってるわ、私は水の魔女。必然的に緑の魔女とは仲が良いの。緑の魔女からあなたとあなたの妻とのなれそめを聞いたわ。それから、悲しい運命が訪れたこともね。だから、今日、試験したの」
「えっ 試験ですか」
「はははは ごめんなさい。あの竜の親子に、ここで水を飲みに行きなさいと命令したわ。前の騎士カイロスのように、あなたはすぐに攻撃しなかった。信じられないけど子竜を見て微笑んでいた」
「かわいらしかったのです」
「あなたは愛情深い人ね。極めて残虐で、私の可愛い竜達を何頭も笑いながら殺した前の騎士カイロスとは大違いだわ。そこにいる愛する人のためなら、どんな運命にも抗う勇者なのね」
「えっ! 」
驚いた彼が自分の後ろを見ると、いつの間にかそこには彼女がいた。
「水の魔女。お願いします。ロメル王国にあなたがかけている呪いを、解呪していただけませんか」
「もちろんよ」
水の魔女は快くそう言った後、詠唱を始めた。
「我、水の魔女の呪いを解呪する。空間に漂うおおいなる水の対流よ。ただしく流れよ。必要な時に雨として地上に降り注ぎ、全ての生命に恩恵を授けよ」
その後、魔女は魔法の杖で空を指した。
「これで呪いは解呪しました。この川の水量も大変豊かになるよう最大限に祈ったわ」
「上流にあった竜の群生地は? 」
「もう数は少ないのですが、新たな群生地を作ることができと思います。なにしろ、水量は十分になりますから。群生地を作ることについては、御了解ください」
ソーニャ王女が応えた。
「はい。必ず我が父に了解してもらいます」
「それでは、さようなら。あなたは後、10人の魔女の呪いを解かなければならないのね。私も含めて、今までの3人は話しがわかった魔女だったけど、残りの魔女に呪いを解かせるのは大変よ」
「えっ ほんとうですか」
「でも、あなたなら、きっとできる。あなた達2人の未来が幸せに満ちあふれていることを心から願っているわ―― 」
水の魔女は空高く飛び上がり、あっという間に消えてしまった。
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