第10話 炎の魔女の特質

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第10話 炎の魔女の特質

 かっての魔女の国は、非常に豊かであった。  その豊かさに目をつけたロメル王国の軍人達が、魔女の国に戦争を仕掛けた。  ロメル王国が勝利した戦争は、魔女と人間に間に大きな遺恨(いこん)を残した。  かって魔女の国には、最も能力が高い13人の魔女がいた。  その内、氷、緑、水、3人の優しい魔女には、後で、人間を激怒する理由ができた。  しかし、その他の10人の魔女は、元々最初から、人間に激怒していた。  魔女になった時から、人間を憎悪していたのだ。    炎の魔女は、大陸の北のはじ、火山地帯の中に住居を構えていた。  火山の裾野にある岩穴だった。 「全く、氷、緑、水の魔女3人は、昔から軟弱すぎるわ! あの騎士カイロスに説得されて、自分がかけた呪いを解くなんて訳がわからない。たとえカイロスが転生者に変ったからといってもねえ」  魔女の前には、多くの火の妖精や熱の妖精が整列していた。 「おまえ達どう思う? 」 「転生者に変ったといっても人間の本質は変りますまい。利己主義であさましい! 太古から我々の力は人間に(しぼ)り取られていたのです。ここは、魔女様がボコボコにしてやってください」 「よしよし、気分上々になってきた。火山のマグマからたくさんエネルギーを吸収し、我が炎の軍団を作り、ロメル王国に進軍しようかね。きっと、あの騎士が―― 」 「たぶん、最初に私達の前に立ちふさがるでしょう」 「今度は負けぬ。この火山を少し噴火させても良いからエネルギーを作るんじゃ」 「御意」  ロメル王国から北の方に火山からの噴煙が見られるようになった。  そして、時々、噴火が起きたような音が聞こえてきた。  王宮では今、その対応のための話し合いがなされていた。  内務卿のゲーテが報告した。 「我が国からは遠いのですが、大陸の北のはじにある火山の活動が活発になっています。噴煙も長い間、続いており、近頃は噴石も空高く吹き上げるようになってきました」  ロメル国王が確認した。 「我が国からははるかに遠い、大陸の北のはじだ。特に何も対応しなくても問題無いのではないか」  大魔法師マーリンが意見を言った。 「大問題でございます。炎の魔女の居場所は、既に、陸のはじの火山地帯であることが判明しています。私が探査魔法で確認しましたところ、魔力の動きが活発になっています」 「魔力の動き? 」 「炎の魔女が火山の力を利用して魔力を蓄え、火の妖精、熱の妖精、火竜などが作り出されています。もはや大軍団といってもよいかと―― 」 「炎の魔女はなんでそのようなこと? 」 「十中八九、このロメル王国に戦いを仕掛けるために違いありません」 「あの魔女は、我が国に呪いをかけてだけでは物足りないのか! 」 「そもそも、魔女の属性は自己中心で好戦的、特に炎の魔女は人間を最も忌み嫌っています。前の戦争の時でも、魔女の国の中心となって戦いました」 「どうしたらよいのか。炎の魔女が攻撃してくるのを待受けるのがよいか」 「いいえ。このロメル帝国の国土まで攻め込まれるのを待ってはいけません」  騎士カイロスが言った。 「国王陛下、前と同様、私が参りましょう。炎の魔女がいる火山地帯に転移して1対1で戦います。ただ、それほど人間に好戦的な魔女だとすると、どうすれば呪いを解呪することに同意するか‥‥ 」 「なかなか難しい問題ですね。前の戦争の時のように、カイロス様が戦いに勝つことは可能だと思いますが、呪いは掛け続けようと思うのが普通だと考えられます」  騎士カイロスは、1人で王宮の一番高い塔の上に登っていた。  そうして北の方を見ると、やはり、はるか遠くの火山地帯から噴煙が立ちのぼっていた。 「どうしよう。炎の魔女がその軍団を率いて攻めてくると、このロメル帝国の国土は焼け焦げ、むざんな焦土になってしまう。それならは先に一騎討ち挑み‥‥ 」  彼は自分の考えをまとめることができなかった。  突然、彼の後ろで声がした。 「カイロスさん。考えすぎは体に毒ですよ」  驚いて、彼はすぐ後ろを振り返った。  すると 「ソーニャ王女様」 「今、この塔の上には2人しかいません。転生前の名前で呼んでください」 「はい。風香さん」 「私には戦いのことはよくわかりません。でも、あなたにアドバイスできる言葉がありますよ。前に行き詰まっていた私にあなたがアドバイスしてくれた言葉です」 「えっ! 僕がアドバイスしたのですか」 「とてもすばらしいことでした。私はあなたと家庭を作ったら、毎日、そのように考えていこうと思っています」 「教えてください。自分で言ったことを教えていただくのも変ですが」 「未来は思いどおりにならないけど、きっと、すばらしくなると信じること。そして、今できる最善の選択をしなければならない。最善の選択は最良の結果につながる」 「風香さん。それって、僕が言ったことですか」 「ふふふふ もちろん、悟さんの口からアドバイスしてくれたことですよ。――超有名な起業家の言葉から、考えたのは超有名な企業家です」 「わかりました。僕は最善の選択をします。炎の魔女の元に転移します」  騎士カイロスとソーニャ王女は早速国王に報告に行った。 「そうか、ある意味では合理的な決断だな。ただ、勇気と忍耐強さが必要なことだ。さすがに勇者だ」  大魔法師マーリンがアドバイスした。 「カイロス様。前回の戦争と同様、プレートアーマー(西洋甲冑)を着て戦いください。聖なる金属オリハルコンで作られた神具が、炎の魔女の業火からカイロス様のお体を守るはずです」 「神具があるのですか」 「そうだ。衛兵、すぐに宝物庫からプレートアーマーを運び、カイロスに与えるのだ」  すぐに宝物庫から神具が運ばれ、騎士カイロスはすぐに着装した。  すると、プレートアーマーは神秘的な金色に輝いた。  国王が言った。 「おう、さすがに神具だな。これならば、どんなに強力な業火といえども、カイロスの体を傷つけることはできまい。出立はいつだ? 」 「はい。明日、魔法陣により転移して炎の魔女の元に向かおうと考えています」 「カイロスよ。困難なことを引き受けてくれてありがとう。我が国はほんとうに幸運だった。真の勇者が、全力で守ってくれるからな」
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