第12話 炎の魔女の特質3

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第12話 炎の魔女の特質3

 聖剣クトネリシカは、騎士カイロスの意志を受け取った。  聖剣は最大の力を出すため、彼の心を強くつかんだ。  炎の魔神ボルケーノを、完全に消滅させることができるエネルギーの(やいば)を形作った。  その(やいば)は一瞬にして炎の魔神に届き、存在自体を完全に消滅させた。 「ばかな!! 私が最高の術式で構築し、最大の魔力を込めた最高傑作を一瞬にして消滅させたの!! あり得ない。人間でできることを超えている」  その様子を見ていた炎の魔女は大変驚き叫んだ。 (確か‥‥ 聖剣クトネリシカはそれを振る勇者の意志の強さに比例した力を出すという‥‥ )  炎の魔女は騎士カイロスをまじまじと見つめた。  カイロスは頭を両手で押さえて、その場にうずくまっていた。  大変な激痛に襲われているようだ。 (やはり、大変な負荷がかかっているのか)  そして、騎士カイロスに告げた。 「騎士カイロスよ。炎の魔神ボルケーノを消し去ったお前の意志の力には敬意を表すことにするわ。しかし、残念ながら私はお前の敵だ。しかも今、お前と戦っている。だから全力で攻撃します」  まだ頭に激痛が走っているようだったが、カイロスはすぐに応えた。 「仕方がありません。このシチュエーションなら当然あなたは、私に攻撃すると思います。私がやれることは、もう1回、さっきと同じことをするだけです。あなたを消さなければ呪いが消えませんから」 「聖剣クトネリシカに、戦い相手を消滅させる意志表示を伝えることは、お前の心に大変な負担と激痛をもたらすみたいだな。それでも、私を消そうとするつもりか」 「あなたから偽勇者と言われましたが、私はロメル王国のために戦う勇者であるとともに、それ以上に、ウェディングで未来を近い合った愛する妻のために戦うのです」 「待て!! 聞きたいことがある。お前は外見は騎士カイロスだが、魔力の高い魔女達の間では異世界転生者だということをみんな知っている。お前の妻はソーニャ王女に異世界転生したのだな‥‥ ‥‥もう3つの呪いが解呪されたが、最初、13の呪いを受けていたはずだ。この状態を異世界前の状態に移し替えると、これほどの呪いとつり合うのは‥‥ お前の妻は不治の病にかかっていたのか? 」 「いいえ、余命1年以内ですが。決して不治の病ではありません」 「そう思うお前の気持ちは立派だ。お前は妻の運命を知っていてウェディングを挙げたのか」 「はい」  すると、炎の魔女はいきなり、無詠唱で自分の頭上に巨大な炎を出現させた。 「大変な困難に挑んでいる勇者よ。今、お前の命を奪い、楽にさせてあげるぞ」  魔女は巨大な炎をカイロス目がけて打ち下ろした。  まだ、彼の心は疲労し、締め付けられ、頭には激痛が残っていた。  しかし、彼は決心していた。 (痛い。耐えられないほど頭が痛い。でも仕方がない、聖剣で炎の魔女を消滅させなければ)  聖剣クトネリシカを握る彼の手に力が入った。  瞬間の戦いだった。  しかし、彼は聖剣を振らなかった。  巨大な炎は彼の目の前で止まった。 「えっ!! 」 「負けました。勇者カイロス。ほんとうの名前は? 異世界転生前の? 」 「神宮悟(じんぐうさとる)です」 「悟の愛に負けた。あなたは自分の心や頭がどうなってもいいから、私を消滅させることを聖剣に伝え、聖剣を振ろうと決断していた。愛する人を助けるどころか、悟の心や頭が壊れていたよ」 「それでは」 「我々は人間がおごり高ぶっていることに怒った。一生懸命毎日を暮らし、未来に生きて行くことを忘れ、怠惰(たいだ)な毎日を過ごしている。効率を求め、我々、火や熱を利用した文明のせいだ」  この時、頭を抑えていた騎士カイロスがあまりの激痛に、その場に倒れた。 「私を消滅するために聖剣を振えば、命を落していただろう。でもきっと、自分の命のことなど少しも思っていなかった。ほんとうに愛する人の命を救うために一生懸命」  そう言った後、炎の魔女はその場に倒れている騎士カイロスを、優しい表情で見つめた。  そして、詠唱を始めた。 「我、ロメロ王国に投げた呪いの言霊を取り消す。解呪する」  やがて、炎の魔女が言った。 「大魔法師マーリンよ。隠れていないで出てくるがよい。ここに倒れている勇者を早く運べ。この地の高温でガスを含む大気はこの者に毒だ。それに、聖剣を使いこなすため、心に大変な無理をかけている」  それを聞いて、大魔法師マーリンが炎の魔女の前に姿を見せた。 「炎の魔女よ、お気づかい感謝する。ところで問う。人間と根本的に相容(あいい)れない炎の魔女が、なんでこの騎士カイロスの願いを聞いたのか? 」 「はははは 大魔法師だから興味があるのか。この異世界転生してきた勇者は人間らしくない。余命1年以内の女性を愛し、この運命にやみくもに|抗《あらが)っている」 「人間らしくないところが、かたくなな心を動かしたのだな」 「そうだ。それにこの勇者は自分の心をかなり痛めてまで、聖剣に敵を消滅させる意志を伝えたぞ。たぶん人間としては耐え難いほどの頭痛が続いているだろう。もう、この手は使わない方が良い」 「そうか、騎士カイロスがここに倒れている理由は、敵を消滅させるほどのパワーを出すよう聖剣クトネリシカに伝えたためか。御忠告感謝する。必ず騎士カイロスに伝えよう」 「さあ、早く帰るがよい。もうロメル王国への侵攻は中止だ」 「では失礼する」  大魔法師マーリンは、意識を失っている騎士カイロスをかかえると、すぐに転移した。 「(さとる)さん。悟さん‥‥ 」  深い海の底に漂うような感覚だった騎士カイロスは誰かの力で海面に引き上げられた。  そして、目を開けて意識を取り戻し、現実の世界に帰ってきた。 「あっ 風香さん‥‥ 」  ベッドの上に横たわっている彼の斜め上から、彼女が心配そうに見ていた。 「よかった‥‥ 」 「ごめんなさい。心配かけました」 「聖剣クトネリシカの最高の力を引き出したことで、悟さんの心に、とてつもない負荷がかかってしまったのですね。大魔法師が心配していました。精神が崩壊してしまう恐れもあったと」 「確かに、今、存在しているものを完全に消滅させてしまうということは、世界の大原則を真っ向から否定するということですから。至難のわざなのですね」 「これからも、こういう戦いが必要になるのでしょうか」 「後、9人の魔女の9人の呪いが残っています。できる限り、この聖剣の究極の力には頼らないで呪いを解除していきます」 「是非是非、そうしてください。私のためにあなたが犠牲になることは、絶対に止めて」
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