第1話 最悪の時を最高にする笑顔

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第1話 最悪の時を最高にする笑顔

 彼女が勤める会社の終業時刻が近づいてきた。  北川風香(きたがわふうか)は少し背の高い女性でロングヘアー。  切れ長の目は暖かく光り、みんなを引きつけるような魅力があった。  彼女はうきうきしていた。  今日はクリスマスイブ――  彼が待っているはずだった。 「なんで私はこんなに幸せ? 」  と自分に聞いて、最高に楽しくなる、とても素敵な人だった。 「もう2分で終わり」  パソコンの時間表示を見てから、こっそりシャットダウンにはいった。  既に、更衣室を経由しなくても帰れるよう、ひざの上にはコートとバックが置かれていた。  彼女の心はもう、この後に必ず訪れるに違いない、素敵な時間のことしか考えていなかった。  しかし、その体制は急に破られた。  突然、彼女の机の上の内線電話が鳴った。  いつもまじめで一生懸命な彼女は、反射的に受話器をとった。  受話器からは低く冷静な男性の声が聞こえてきた。 「北川さんですか。職員管理課の鈴木です。健康診断の後、再検査を受けられましたね」 「はい。少し痛かったのですか組織検査ということでした」 「その組織検査の結果が出たそうで、提携先の病院からお医者様が来られました。終業間際ですが大至急、その内容を説明したいそうです。第3会議室に来ていただけますか」 「はい。今すぐ参ります」  彼女が全く忘れていたことだった。  なぜなら、過去に毎年受診した健康診断の後、再検査を受けたことが多くあった。  それらは全て「以上無し」だった。  そのため、今回もそれが結論ではないかと思っていた。 (仕方が無いわ。どうせすぐに終わる。仮に少し遅れたとしても、彼は絶対、優しい微笑みで許してくれるから問題ない)  彼女は直接帰ろうと、自分のコートとバックを持って席を立ち、指定された会議室に向かった。
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