第2話 ライスシャワーと神の御業(みわざ)

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第2話 ライスシャワーと神の御業(みわざ)

 北川風香(きたがわふか)神宮悟(じんぐうさとる)。  とても明るく性格の良い2人には多くの友人達がいた。  今、悟はある親友と会っていた。  親友の名は鈴木ふみお、悟とは真逆の理系人間だった。  性格もおおらかな悟とは事なり、繊細で重要なことによく気が付いた。 「そうなんだ。彼女が悪性腫瘍で、余命1年1以内とはな」 「昨日、彼女にすぐに手術を受けるよう勧めたんだ。すると、彼女が即断して、その場で医師にすぐ電話して手術を申し込んだ。『両親に言わなくてもいいの』って言ったら『あなたの言葉が優先』って」 「そんなに心が通じ合ってるんだ。うらやましいな」 「今日はふみおに、たってのお願いがあるんだ」 「なんだい。どんなお願いでも聞くよ。悟が今背負う苦しみは、相当なものだからな」 「頼む。確か、ふみおの実家は教会だったね、結婚式を行う。12月31日に結婚式をやりたいんだ」 「は――――はははは。確かに僕の実家は教会で父親が牧師、もちろん、結婚式もとり行う。でも、もう1週間も無い。31日の結婚式ってかなり多く、1年以上前でも予約は完了さ」 「そこをお願い」 「理由を述べよ」 「彼女の手術の日が1日1日になったんだ。それ以降だと半年以上先になってしまうということで、お医者さんが特別に設定してくれた。それを聞いた時、風香さんと僕は涙を流したよ」 「神の御業(みわざ)だ。『乗り越えられない苦難は与えない』んだな」 「どういう意味」 「既に、悟と彼女が絶望の淵からジャンプするための道ができつつある。ここにもそうだ」  ふみおは、自分の手で自分の胸を触った。 「‥‥ ということは」 「もちろん、僕に任せておけ。少しも心配するな。父親を説得する。僕の実家の教会は12月31日、悟と風香さんの結婚式を執り行う。思う存分、使ってくれ」 「‥‥‥‥ 」 「おい。泣くな、しっかりしろ。絶対に、風香さんの方が辛いはずだ」 「‥‥ うん。わかった。ありがとう」    一方、北川風香は友人の足立美保とスイーツを食べていた。  イチゴのショートケーキを食べていた風香が言った。 「あっ! 大丈夫かな。こんな甘いものを食べると、私の十二指腸のガンが成長してしまったりして」  足立美保は幼稚園の時からの風香の幼なじみ。  2人はお互いに、何もかも知っている仲だった。 「風香。大丈夫。あなた、いつも冗談を言った後は明るく愉快に笑い飛ばすじゃない。その癖は、小さな子供の頃から全然変らなかったはず。でも、今、あなた、笑わなかったわ」 「ごめんね。心配かけて」 「ひとつアドバイス。あなたの今の最大の悩みは、余命1年以内と宣告されたことではないでしょう。きっと、そんなあなたと、悟さんが結婚することだわ――違う? 」 「はは――ははは、美保にはかなわないわ。そのとおりよ」  その言葉を聞いた後、足立美保は彼女をしっかりと見つめて話し始めた。 「悟るさんはあきらめていないわ。絶対にあなたを救うはずよ」  ある大教会の聖職者が、息子に質問されていた。  息子は、神宮悟(じんぐうさとる)の親友、鈴木ふみおだった。  聖職者はキリスト教最高の奥義の祈りを捧げていた。 「お父さん、祭壇の小箱はなんですか? 」 「12月31日、お前の親友が余命1年もない彼女とその彼が結婚式を挙げ、その終了時に2人に向かって投げるライスシャワーだ。幸運な未来を迎えるため、お前の大切な親友のための大サービスさ」 「ライスシャワーに祈祷しているのですか」 「日本ではあまり知られていないが、ヨーロッパではよくある。キリスト教。、我が宗派の最大奥義」 「そんな祈祷あるんだ」 「そうさ。私はかなり階級の高い聖職者だからね。神は我々に試練を与えられるのだけれど、それは必ず克服できる。結婚式を挙げる2人も必ず試練を克服し幸せになれるだろう」 「でも、花嫁は余命1年もないガンですが」 「大丈夫。もう奇跡は少しずつ起きている。最初に花婿の心だ。花嫁が余命1年もないことを知った瞬間、すぐにプロポーズしたそうだね。この間のクリスマスイブにな」  北川風香(きたがわふか)神宮悟(じんぐうさとる)の結婚式は、順調に進んだ。  そして、終了が近づいた。  結婚式の司会をしていた聖職者が言った。 「皆さんの温かな御参列の元、式は最後まで進行しました。2人の新婚旅行はおあずけです。なぜなら、 今から2人は車で病院に向かい、花嫁が、ガンを根治するため手術を受けるからです‥‥ ‥‥こんな不幸なカップルは他にいないかもしれません。でも、この教会の扉から2人が外に出て、みなさんのライスシャワーを浴びた後、2人は必ず世界一の幸せをつかむのに違いありません」  拍手の嵐が起きた。  拍手をしている人々のほとんどは、2人の幸せな未来を心から祈り涙を流していた。  参列者達が外に出た。  そして、教会の後ろの出口から始まる折口の両側に立った。  彼らには米粒が配られた。  やがて、教会の後ろのドアが開いた。  北川風香(きたがわふか)神宮悟(じんぐうさとる)の姿が見え、2人は建物から出た。  すると、多くの参列者が投げたライスシャワーが2人を優しく包んだ。  霊力が高い聖職者の祈祷、そして多くの参列者達の祈り。  神が知られることとなった。  時間の進行が遅くなった。  風香が悟に言った。 「悟さん。何か変」 「そうですね。ライスが落ちるのが遅い。あっ!!!! 」  ライスシャワーは米粒ではなく、多くの小さな天使達が翼を動かし飛んでいた。 「参列者の皆さんは全員静止している。変だな」  その時、教会の上空が明るく輝き、声がした。 「神に祈りはとどいた。天使に包まれた2人よ、チャンスを与える。運命に(あらが)い幸せをつかみたいのなら、そこからジャンプし飛び込むがよい」  声は2人の心の中に届いた。  2人はすぐに顔を見合わせ、同じ決心をした。  2人の目の前に、多くの小さな天使達が飛びながら丸い輪を作った。  それは、真っ暗で先が全くわからないトンネルの入口になった。 「風香さん、ジャンプしましょう。あのトンネルの仲に飛び込むのです」 「はい。飛び込んだら、どうなるのかわからないけれど、さっきの声はきっと神様でしょう」 「何が待っているのかドキドキしますが、風香さんとは絶対離れません」  2人は いつの間にか、しっかりとお互いの手を握り締めていた。  風香の手が少しふるえていることに気が付いた悟は優しく言った。 「大丈夫。なんとかなります。2人が一緒にいれば、どんな困難だって乗り越えることができます」  天使が開けたトンネルの入口に2人はジャンプして飛び込んだ。
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