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第6話 緑の魔女の真実2
数日後、騎士カイロスが緑の魔女のそばに、転移しようとする日がきた。
王宮の前、大広場に、大魔法師マーリンが既に魔法陣を構築していた。
「緑の魔女は、元魔女の国のへき地、かなり遠方の山岳地帯にいます。だから、魔法陣を大きくしてパワーを高めなければなりませんでした」
「マーリンさん。この聖剣クトネリシカの力で、物を焼き払うことができるのでしょうか」
「はい。聖剣を振う者が集中して意識を伝えれば、可能です。あなたと緑の魔女との前の戦いの時に、あなたがその力を使って、魔女の武器となった木や草を燃やしましたね」
「正々堂々とした戦いなのに、なぜ、緑の魔女が激怒して、この国に呪いをかけたのでしょうか? 」
「何かあったに違いありません。今回の戦いで、その理由を知らなければ、仮にカイロスさんが勝利したとしても、魔女に呪いを解かせることはできないでしょう」
「その点に注意して戦うことにします。それでは転移をお願いします」
「わかりました」
騎士カイロスは魔法陣の中に入ろうとして、入る前にあいさつした。
「国王様と王女様、言って参ります」
国王が彼に告げた。
「大変な戦いになると思うが、よろしく頼む」
次にソーニャ王女が言った。
「木や草が育たない国はやがて滅ぶしかありません。人間にとって緑は必要不可欠な存在なのです。緑は人間の敵ではありません。難しいと思うけど、そう思って戦ってくださいね」
(悟‥‥ )
その時、騎士カイロスは転生前の、神宮悟としての記憶を想い出した。
それは浜市の繁華街、雑踏の中だった。
会社の友人達と飲み会に行くために、先を急いで友人と並んで歩いている時だった。
彼は不思議な光景に気を取られて、思わず立ち止まった。
「ちょっと、先に行ってて」
友人達が彼をせかした。
「悟、何やってんだ。早く行かないと、割引タイムが終了してしまうだろう。早く着いて、飲み屋さんに入店しなければならないんだから」
若い女の子が、タイル張りの歩道にしゃがみ込んでいた。
最初、彼はその子が体調悪くてうずくまっているのかと思った。
しかし、そうでもなさそうだった。
彼女は生き生きとして何かをじっと見ていた。
「あの―― すいません。何をなさっているのでしょうか? 」
彼がそう聞くと、しゃがみ込んでいた彼女は彼を見上げた。
背の高い彼を、切れ長の彼女の目が見上げた。
その瞳は温かく光り、彼はひと目でひきつけられた。
(あっ、優しさがにじみででいる。素敵な人だ)
彼女は立ち上がった。
(けっこう背が高いな、それにロングヘアーがさらさらしている)
「ごめんなさい。この子のことが心配で、この場所を離れることができませんでした」
「この子、ですか? どこにいますか? 」
彼女は笑いながら、少し恥ずかしそうに歩道のタイルの一画を指差した。
彼は最初、指差されたものが何かわからなかったが、やがて、おぼろげにわかった。
「白い花? でもよく見たことがある。これはシロツメグサ‥‥ 」
「そうです。こんな人間の往来が激しい雑踏の中で、たった1株だけコンクリートのすき間から茎をだし花を咲かせています。だから、この子を応援していたのです」
「応援ですか? 」
「ふふふふ 変でしょう。がんばって、がんばって―― 」
彼と彼女は最初の出会いの時から、心がしっかりと通った。
「きっと、『大丈夫だよ。しっかりと生きていけるから。花も咲かせることができてうれしい』と返事をしたのでしょうね」
「えっ、えっ、えっ、えっ びっくりした―――― そのとおりです」
2人は最高の笑顔になった。
「私、|北川風《《きたがわふうか》っていいます」
《よく見ると、さらにびっくりするわ。私と調度良いほど背が高い。巻き毛が大きい瞳のそばまで伸びていてアニメの主人公みたい。だからきっと、性格なおおらかな彼は優しく、明るい楽天家)
「僕は神宮悟です。あの―― この子が大丈夫と言っているから、ここを離れて、僕とコーヒーを飲みに行きませんか。コーヒーはきらいですか」
「またまた、うれしいことがわかりました。私はコーヒーが大好きです。一緒ですね」
「あ――――っ 北川さん。今、気が付きました。この子に教えてもらいました。この子は四葉のクローバみたいです」
「ここに1株だけ生えて、しかも幸運のシンボル‥‥ 」
騎士カイロスは我に帰った。
「マーリン様。それでは」
「わかりました」
マーリンはそう言うと、魔法の杖で魔法陣の端に触れた。
すると、カイロスはその場から転移した。
すぐにカイロスは転移した。
回りは木々が生い茂ったような森林だった。
緑がとても濃かった。
息を吸うだけで元気が出て、元気がみなぎった。
「とても良い環境、心も体も洗われる。そうか、転生前に結婚してから少し疲れていたのかな」
やがて、驚くべきことが起きた。
無数の緑色の粒子が彼の回りに集まってきた。
「えっ、なんだろう」
よく見るとわかった。
無数の緑色の粒子はたくさんの妖精達だった。
緑の妖精の1人が彼に話しかけてきた。
「人間さん。あなたはとても優しい愛に満ちたオーラをまとっているのね。僕達は、あなたのオーラにさわるだけでエネルギーをもらい、元気がでます。もっと、もっと、たくさんの仲間達が集まってくるよ」
「かまわないよ。さわるだけなら」
「ごめんね。たくさんの緑の妖精に触られると、うっとうしいですよね。でも、この頃、ずっと僕達にエネルギーをくれていた人が、病気で寝込んで、外に出られないから」
「大変だね。その病気で寝込んでいる人はどうしたの? 」
「もう何年も前、戦争で戦った時、相手の騎士に自分が使役する木や草を燃やし尽くされたんだよ。『木や草なんてすぐ生えてくるからゴミ同然』なんて、ひどいことを言ったんだ」
「う――――ん 聞くのも恐いな―――― その病気で寝込んでいる人って? 」
「緑の魔女様さ」
「もう一つ聞くよ。戦争で緑の魔女と戦った人って? 」
「ロメル王国の騎士カイロスさ。世界最強の騎士だそうだけれど、心は邪悪で世界最悪さ。そのオーラは僕達にとって猛毒なんだ」
「顔や背格好を覚えている? 」
「うん。あなたとそっくり、うり2つさ」
「緑の妖精さん達は恐くないの。もし、僕がその騎士カイロスだったら」
「はははははは それは完全に無い。僕達は外見で人間を判断しないよ。その人の心や現わすオーラを感じるんだ。あなたは、絶対に別人! 」
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