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この世界に青い妖精はいない
「次の方、どうぞー」
医者がそう言うと、診察室に一人の男が入ってきた。その男は、顔の半分を覆うようなマスクを装着ている。新型コロナウイルスも落ち着いてはきているが、今だにマスクは必需品。珍しくもない。
男は丸椅子に座り、医者をじっと見つめた。マスクは外さない。
受付から渡されたカルテは白紙。男に突然「何か」が起こり診察欲しいと訪れたと言うことになる。
「今日はどうしました?」
「じ、実は私にもわからないんですよ。どこの科に行けばいいかわからないもので」
この診察室は内科で、医者も内科医である。
「ほう、どこの科に行けばわからないとは?」
「鼻がおかしいんですけど、おかしくないんですよ。言ってることの意味がわからないんですけど、そうとしか言えなくて。だから、耳鼻科ではないかなと」
「鼻詰まりや鼻水が止まらないと言う意味ではなく、鼻そのものに『何か』があったと言う意味でしょうか」
「そう、なりますね。だから、皮膚科かなと思ったんですけど…… 鼻の皮膚には問題がないけど、ありまして」
よくわからない患者さんだなぁ。医者は内心で首を傾げながら自分の鼻を指差した。
「鼻骨が痛いとかそんな感じですか? そうですねぇ、顔面にボールをぶつけたら、暫く時間が経って急に痛みだして病院に来たみたいな」
「それとも、違うんですよね。鼻をぶつけてませんし、鼻は一切痛くないんです。骨には間違いなく問題あると思うんですけど」
「分かりました。その鼻の方を見せていただけますか?」
耳鼻科に行くような鼻の諸症状はない、皮膚科に行くような鼻の腫れもない、外科で修復するような鼻の損傷という話でもない。
間を取って内科に来たと言ったところだろう。と、医者は考えた。
「じゃあ、鼻の方を診ます。マスクの方をお取り下さい」
男はマスクを外した。医者はそれを見た瞬間に驚き、丸椅子から落ちそうになってしまう。
「この鼻、どうなってるんですかね?」
内科の医者にはそう尋ねられても皆目検討がつかなかった。多分だが、この世のどんな医者に尋ねても皆目検討がつかないだろう。
なぜなら、男の鼻は頭が突起状になっており三センチ程突き出ていたからである。
それはまるで絵本の「ピノキオ」の鼻そのものであった。
医者は一瞬戸惑うも、すぐに冷静さを取り戻しヒアリングを行うことにした。
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