この世界に青い妖精はいない

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 嘘を()けば、鼻が伸びる。誰も彼もが嘘を()いていることが鼻を見ることで分かってしまうため、人間は他人を信用出来なくなってしまった。ビジネス、政治、人間関係…… 人間社会の(あら)ゆる側面に影響を及ぼすようになってしまったのである。 嘘を()いていることによる商談の不成立、政治家が宣う公約(マニフェスト)は全て口だけのパフォーマンス、国際交流の駆け引きも鼻が伸びることで交渉にならない、お世辞や社交辞令や建前を言っても鼻が伸びるために嘘と知られ相手を怒らせてしまう。 人が人と直接、(つら)を突き合わせて話をすると言う行為(がいねん)が消え去ろうとするのであった。  人間社会の崩壊は刻一刻と近づいている…… 今まで人間は嘘を「内心での許容」は出来ていたが、鼻が伸びることで嘘の視認が可能になったことで嘘を()いていると明確に分かってしまい怒りの感情が優先し嘘の許容が出来なくなってしまった。  その証拠に、鼻が伸びる相手を見て激昂した末の暴行事件や殺人事件が世界中で頻発するようになってしまった。鼻が伸びた政治家同士の交渉が決裂し、戦争が開始された二カ国もあったと言う…… 気に入らないからと言って相手を殺していれば、地球の人口は瞬く間に減っていく…… ほんの半年程で地球上の人口の四分の一が殺人によって消え去っていった。 理由はいずれも「嘘を()かれて気に入らなかった」である。  このままでは倍々ゲームで人口が減ってしまい、最終的には人類の滅亡に繋がるかもしれない。とは言え、人間が嘘を()くことを止めるのは不可能。 それを憂慮したイタリアの医者は「嘘」こと「伸びる鼻」を覆い隠す妙案を考えた。かつての遠い昔に我が国の医者が被っていたカラスマスク、それを被れば伸びた鼻を隠せると閃いたのである。 イタリアの国民がカラスマスクを被りだしたと国際ニュースやインターネットで全世界に拡散された。すると、全世界の人々は挙ってカラスマスクを被りだした。長く伸びた嘴で、長く伸びる鼻を隠すためである。 今や、世界中猫も杓子も「嘘」を隠すためにカラスマスクを被る者たちばかり。 これによってピノキオ病が発生する前の、嘘を「内心で許容」出来る元の人間社会へと戻りつつある。なぜなら、伸びる鼻が長く伸びた嘴によって隠されているために「嘘を吐いているか、吐いていないか」が分からないからである。
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