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「……どうするの」
「っ、」
隆志はゆっくりと顔を上げる。
そして言いにくそうに視線を彷徨わせ、少ししてから口を開いた。
「佑里斗には、申し訳ないけど……」
「……」
ゆっくりと目を閉じる。
これから何を言われても、自分のために冷静でいなければと唇の内側をグッと噛んだ。
「相手と子供の二人を不幸にするか、お前一人を不幸にするかを選ぶなら、俺は一人がいい。」
「ハッ……」
「別れてくれ」
佑里斗は何も言わなかった。というより何も言えなかった。
番ってこんなに呆気なく終わる関係であったっけ、となんとも馬鹿らしく思える。
少しの沈黙。その間にこれからの事を考えていた。
自分の未来には不安しかない。
けれどこの先産まれてくる子供のためを考えると、自分が彼を手放してあげる方がいい。
きっと、父親がいた方が母親も安心できるはず。
「わかった。でも、条件がある。」
「……」
「番関係は解消するから……治療費を出して」
「わ、かった」
「明日、病院に行く」
そう伝えるが、心はどんどん冷えていく。
番と別れるということは佑里斗にとって深刻な問題だ。
佑里斗は施設で育った。
隆志が居たから愛情を貰うことで寂しさを感じることは無かったのだが、『また一人になるんだな』と思うとあまりにも悲しくて。
話を終え、ずっと一緒に眠っていた寝室ではなく、自室に戻る。
ドアを閉めて、それに背中を預けズルズルと床に座り込んだ佑里斗の目は潤み、一人静かに泣いた。
涙を拭ってくれる人はもう居なくなる。
これから自分の力だけで生きていかなければならない。
きっと過去に番のいたオメガなんかを誰も必要としてくれない。
明日なんか来ないでくれと思った。
全部夢であってくれ、と。
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