第1章

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□  あれから三ヶ月。  佑里斗は羽田に追い出される形で、何も持たないまま安アパートで一人暮らしを始めた。  だがいくら安いとは言っても、月々の家賃や光熱費にお金が掛る。  ただの大学生である佑里斗は、アルバイトをしてお金を稼ぐしかないのだが、そもそもオメガを雇ってくれる会社はほとんど無い。  ようやく見つけたアルバイトは、夜間の倉庫での作業だった。  なので昼は大学に行き夜は倉庫で作業をした。  睡眠時間はたった二時間。  少しでも節約するために食費も削る。    まあ、そんな生活を送っていると体にガタが来るのは当然である。    ある日、なんとなく体が重たいと思っていたのだが、余程体調が悪かったらしく大学の敷地内で倒れた。  歩いていると視界がグワンと大きく回り、それからの記憶はない。  気がつけば医務室のベッドの上で目を覚ました。  朝だったはずなのに、夕方になっている。  何があったのか思い出せず、時計と天井をぼんやり眺めていた。 「起きたか」 「……?」  突然声を掛けられ、声の聞こえた方向に顔を向ける。  そこに居たのは、同じ学科で佑里斗より二つ学年が上の──美澄 琉生(りゅうせい)だった。  彼はとにかく綺麗な容姿をしており、また金持ちだとの噂があって、遠巻きにキャーキャーとよく騒がれている。  なぜ遠巻きかと言うと、本人は静かに過ごしたいタイプのようで、一人でいる事が多い。その上話しかけても素っ気なく返事されるので、若干怖がられている節もあった。 「お前、顔色悪すぎるぞ。寝れてないのか?」 「……ちょっと、バイトがあって……」 「はっ……学生の本分は勉強だろ。倒れるまでバイトって馬鹿じゃないのか。」  琉生の言葉にムッと顔を歪める。  どうせ、金持ちのアンタにはわかりませんよ、と。 「うるさいな……。ていうか、なんでアンタがいるの。」 「倒れたお前を、俺が運んだから。」  サラサラと揺れる金髪は、琉生にとてもよく似合っている。  佑里斗は視線を逸らして「それは、ありがとうございます……」と悔しそうに口にし、ベッドから降りようとした。 「なあ、何で番がいんのにそこまで一人で頑張ってんの。」 そんな時、問われた内容にギクッとして動きを止める。 「……番は居ません」 「居るだろ。噛み跡があった」  どうやら項の噛み跡を見られていたらしい。  つまり、性別をわかっていた上で助けてくれた。  普通、オメガは疎まれる立場なのに。  それを知ってしまったので、佑里斗は正直に伝えることにした。 「解消したんです。」  キーンと耳鳴りがする。  心から好きで、信じていたのに、まさかこんな事になるだなんて。    俯く佑里斗に琉生は「ごめん」と謝った。 「余計な事聞いた。……一人で帰れるか?」 「……うん」 「……。やっぱ送ってく。家どこ」  彼の厚意を受け取ることにして、住所を伝えた。  そうすると琉生は佑里斗の荷物を持ち、立ち上がったその体を支えるようにして、一緒に帰路に着いた。
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