牢のなかで(1)

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牢のなかで(1)

 鉄格子の中には、髪を後ろで止めている高身長の男と、壁に体重を預けてぴくりとも動かない女がいた。    これは、夜。  床がひどく冷えていて、男はいかに、身体を床に着けず眠ろうかと悩んでいる。  それから。  気づいたように放心状態の女を揺すると、目の前の皿のパンを千切って押し込む。  女は抵抗こそしないものの、口に入れられたパンを噛もうとはしない。 「起きてるよな? 僕と話すつもりはないか」  女は肯定とはいえない程度に頭を下げる。  男は女を見て溜息をついた。 「分かった。僕はもう寝る」  静寂が訪れる。  男が縮こまって眠っているのを確認する。  女はようやく口の中のパンを飲み込んだ。 「私は馬鹿だ。主を見殺しにした」  女の右腕には腕輪が付いていた。  魔法を封じるものだ。  そうでなければ、女の実力であれば簡単に外へ出られた。 「パンを食べて僅かに生き延びたことでどうなろうか?」  何もない天井を見上げる。  考えてもどうにもならないものばかりだ。  もっと力があれば。  今更日ごろの鍛錬を悔やんでも仕方がない。  だが、主を守れず牢に捕まっているだけの自分が大嫌いだ。
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