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キトとアスイテント
アスイテントは一時的にウルタイルの屋敷に来ていた。
ウルタイルが王になるアスイテントをからかいながら、骨付き肉を貪っていた。
キュステはご主人様に相手してもらえず、その怨嗟をアスイテントに向ける。
今最も尊敬を集める男アスイテントにここまで恨みの視線を向けるのは、大統領たちとキュステくらいである。だが殺気という面ではキュステの方が強い。それもそのはず、
「キュステ、これからは他のメイドも戻ってくる。よくやってくれたな。家族も戻ってくるだろう!」
ウルタイルは愉快そうに言うが、キュステにとっては酷な話である。
アスイテントとキトがさっさと寝室に行ってくれれば二人きりなのだ。
「代々伝わる秘宝を壊したくせに。あれは最大の不幸を一度だけ打ち消す代物。キト、協力すべき」
「協力?」
「ウルタイル様のこと」
キュステは顔を赤くして、なかなか説明できない。
鈍感なキトが理解できるはずもなく。
キュステは代わりに憎きアスイテントに耳打ちをする。
王になったなら跡取り作って、王族の血はほとんど残っていないでしょ? と。
アスイテントはドン引きした。
だが、有能メイドが怖い目付きをしているのは大体骨付き肉の男のことだろう。
アスイテントとしてもキトに話したいことがあった。
「キト、行こう。僕は疲れた」
「はい」
キュステがアスイテントを見てニコッとした。
アスイテントは逆らってはいけない人物だなと怖がる。
その怯え方はまさか一国の王になる人物とは思えない。
寝室にて。
キトとアスイテントは改めて二人きりになると恥ずかしくて、背を向け合うようにベッドに座る。同時に座ったらしくベッドが少しだけ軋んだ。
アスイテントは軽いらしく音が小さくて、キトの方が大きな音がした。
僅かな違いだがキトは気になってしまう。
「キト、今までお疲れ様。僕はキトに隣にいてほしい。計画は終わってしまったが」
「もちろん。私、アスイくんといると嬉しいんです」
「そっか」
「「あの」」
声が重なる。
譲り合って、キトから話すことになった。
「矢が私の喉を貫こうとしたとき、もう死んだって思いました。そのとき、アーリエ様のことを思いました。私にとってご主人様はただ一人です」
「ああ」
「でもアスイくんも私の中の特別な一人です。恋、してみてもいいですか?」
アスイテントはドキッとしてしまって、手を力強く組んで耐えてみる。
「僕はキトに隣にいてほしいから。僕と、結婚してください」
沈黙。
アスイテントはキトの反応を見るのが怖くて俯いた。
キトは勢いよく立ち上がる。
「駄目ですよ、アスイくん」
「あ、うん」
振られる空気だったのか?
とアスイテントは落ち込む。
キトは弟をあやすような声で、
「結婚って早すぎます。まずはお見合い、デート、恋人、婚約、結婚と段階を踏むべきです。なら早速お見合いを組みましょう。アスイくんならいいですよ?」
「お、お願いします」
戸惑いと、安心。
どうやらキトは好いてくれているらしい、たぶん。
ちなみに、段階をキトに話したのは姉的存在のアーリエだった。
どこか抜けているキトが勝手に結婚を決めてしまうのが心配だったのである。
逐次確認して私が認める人でなければキトは渡さないわ! というご主人様のキト愛によるものである。
アスイテントは大体気づいているが、アーリエに勝てないことは察していた。
「お願いされました!」
キトは嬉しそうにベッドに飛び込む。
そして、背中を向けるアスイテントの服を引っ張った。
「アスイくん、明日からもお願いします。行くところがなくて、一緒にいていいですか?」
「いるものだと思ってたんだが」
アスイテントは拗ねて背を向けて寝転ぶ。
もう少しキトとイチャつけないか? と振り向いてみるが。
やっぱりキトは気持ち良さそうに眠っているのだった。
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