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あの日の話
牢にいる女、キトは辺境伯家の魔法騎士であった。
魔法騎士とは魔獣を乗りこなして魔法を使って戦ったり主人を守ったりする人で、上位の貴族は、規模は様々だが保有していることが多かった。
多かったと言っているのは現在のイクス国が貴族制ではなく、民主主義による大統領制で統治されているからである。
大統領制になったのは武力行使による。周辺国での民主主義の異常な高まりと、どこからか囁かれるようになった貴族への不満によることで、国民が軍を結成して貴族らを捕らえ始めた。
各家の党首については処刑されることが多かったが、その他は牢に入れられるか家に軟禁されるか、人によっては貴族の名を捨てて一般国民として社会に出るかしていた。
しかし、辺境伯家に関しては特例で、王族の血をルーツに持つ一家は全員処刑することになった。騎士のキトを中心に抵抗するも、追い詰められる。
「アーリエ様、申し訳ございません」
キトの直接的な主は、辺境伯家当主の一人娘であった。
連日の逃亡生活で疲れたキトは襲撃に対処しきれず、主であるアーリエを怪我させてしまった。アーリエは足の骨を折ってしまい、その場で倒れる。
キトはアーリエを守り続けたが、そのときがやってきてしまった。
「ねえ、キト。私だけよ、大丈夫。キト、ここから先は自分の人生を生きたらいいのよ」
頬を血で染めたアーリエは、ぐったりと地面に倒れながら言った。
「アーリエ様、駄目です」
「長い逃亡生活だったわね。すごくね、楽しかった。キトが本当の妹みたいで」
「ですから。アーリエ様、」
キトが言いかけたときだった。
鼻の下の髭を弄る太った男が現れる。
「アーリエ様は殺すな。代わりに、君にはこれを付けて牢まで来てもらう。そしたら殺さない、魔法を封じるものだ」
「分かりました。アーリエ様のためなら」
キトは腕輪を付けた。
しかし、その瞬間髭の男は高笑いをする。
「これで魔法を放たれて被害を出さずに済む。最後のあがきを封じた。おい、アーリエ様を殺せ。そして、この女は捕らえておけ」
敵一人の剣先がアーリエの首へ向く。
「あ、ああ。駄目です、アーリエ様、助けてください、やめてください!」
魔法を失ったキトは喚くしかない。
血の華が散った。
キトは脱力して、そのまま気を失った。
身体が目の前の悪夢に耐えられなかったのだ。
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