精霊魔法

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精霊魔法

 キトは眩しくて目を覚ます。  ゆっくりと身体を起こした。  アスイテントは、仄かな光と戯れている。 「アスイくん?」  キトはアスイテントの様子を見て違和感があった。  自由に動けている?  腕輪がないことに気づく。キトにもない。  つまり、キトは魔法が使えるのだ。 「腕輪」 「キトさん。これだよ、これ」  アスイテントは鍵を指で回す。 「どこから?」 「精霊たちに持ってきてもらった。すぐにここも開けよう。柵があるからって警備がみんな寝てるのは甘いな」  アスイテントは穏やかに微笑む。  光に鍵を渡すと、鍵は光の上に浮かぶ。  鉄格子の外に出ると、錠に近づく。  音が鳴った。 「ここから出て、温かいものでも食べよう?」  警備が床に倒れている。  涎を垂らしていびきをかいている。 「次はこっち!」  キトは緊張感から声を出さずにいた。  一方で、アスイテントは陽気そうに進む。 「こっちだね」  進んで。 「こっち。ってこれはなかなか」  蝙蝠型の魔物がいた。 「精霊魔法は遅効性しかないから。腕輪は僕が解除したんだ、戦える?」 「もちろんです」  キトは空間に魔法陣を三重に展開する。  炎が帯状になって円を描きながら前方へ。  一瞬で魔物を灰に変えた。 「想像以上。元気になった?」 「連日追われていたので。それよりは僅かに」 「助かる」 「アスイくんはこの場所に詳しいのですか?」 「全く。マップも精霊魔法に教えてもらった」 「そうですか」 「気を張り詰めすぎない方がいい。警備や追手はまだまだだろうから」  鉄格子の外は迷宮のようだった。  何度も分かれ道が存在し、アスイテントが言うままに進んでいく。  薄暗く足元にある小石も段差も十分に注意できない。 「あっ」  アスイテントは足を取られて前に倒れそうになる。  キトが咄嗟に腕を掴んで大事には至らなかった。 「こういうこともあるから、精霊魔法が使えても逃げ出せなかった。僕には王になる資格がある、でも生きてその権利を主張するためには魔法騎士のような強者が必要だからね。キトさんのような綺麗な人ならより」 「私が仕えるのはアーリエ様ただ一人です」 「分かってる。僕の隣にいてほしい。主従関係を求めていない」  そのとき警備の男たちが見えた。  全員剣を抱えている。  アスイテントとキトは壁に沿って隠れる。 「キトさんに任せても悪くないけど、せっかくなら精霊魔法もお披露目しようか」  床から綿のような光が無数に浮かんでくる。  その光が警備の方へ向かうと、光同士が合体して空間に広がっていく。 「なんだ、なんだ?」  警備は光を見て慌てる。  しかし、あまりの眩しさで目を塞いだ。 「今のうちに行こうか」 「この先って」 「森を抜ければ街に着く」  キトは目を瞑る。  アスイテントに導かれるままに森へ入る。  茂みから腕が生えるように出てきてアスイテントは捕まった。  キトが経過して魔法陣を展開すると、アスイテントが手を広げて制する。 「キト、彼女はね?」  瞬間、キトの視界は真っ暗になって。  目を開けると、石煉レンガでできた噴水のある庭に倒れていた。 「ここは?」  キトが聞くと、その金髪の少女は頭を下げて、スカートをたくし上げた。 「私はキュステ。まだ非合法ですが、この国唯一の貴族ウルタイル様のメイド兼魔法騎士です。今、王になる資格があるのはアスイテント様のみでしたので無事でよかったです」 「唯一の家ではないのか?」 「ウルタイル様のご家族様はみな亡命しました。ただウルタイル様はどうしても残ると」 「キャステ、僕のためにご主人様がイクス国に残るのは不満か?」 「申し訳ございません」 「それでいい。だが、ウルタイルさんがいなければ、この国をひっくり返すのは不可能だ」 「はい。この人は?」  メイドが聞く。   「私は元魔法騎士のキトです。牢の中でアスイテント様と出会いました。この国を取り戻すために私も戦います。私は今の大統領に復讐をする」  キトの目が場を黙らした。  メイドが歩き出して、キトは噴水が屋敷の中央の庭にあったことに気づく。 「キトさん、やることは変わりにないが、君には復讐をしてほしいとは思わない。命令ではないが、キトには僕の隣にいてほしい」 「私の主はアーリエ様だけです」 「もちろんそのつもりだ」  屋敷の広間に案内された。  広い空間に、キュステ、アスイテント、キトの三人だ。  ステーキや蒸し野菜、豆で作ったスープが並ぶ。  平たく焼いたパンも一枚ずつ。 「よく来たね」  眼鏡をした老人。  しかし筋肉質で、緩いシャツは胸のあたりで張ってしまっている。 「わたくしと一緒にこの世界をひっくり返そう。ウルタイル、アスイテント様を国王にするために待ってた」  巨大な骨付き肉を食らいながら現れた男こそ、ウルタイル。  ウルタイルが椅子に座ると軋む音が聞こえた。 「今日も食事をありがとう!」  ウルタイルが元気よく言うと。  メイドのキュステは耳を赤くして。 「も、もちろんですッ!」  先ほどよりも落ち着かない様子で答える。  それに気づいたアスイテントは頷き。  キトはキュステの反応が理解できずに首を傾げる。
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