6人が本棚に入れています
本棚に追加
常にチヤホヤされて生きてきた。だから幼い頃から自分の容姿が優れている事は自覚していた。言い寄ってくる相手は男女問わず後を絶たない。『この世は俺のためにある』とすら思っていた。
「村瀬広人くんが好きです。付き合ってください」
同期の藤村春樹に告白されたのは、新卒で入社して1年経った頃だった。同期と言っても部署が違うから、あまり接点はなくて驚いた。
顔を真っ赤にして、手をプルプル震わせて、目元はうっすら涙が滲んでいた。健気だな、とは思ったが、絆されたわけではない。抱けなくはない、と思ったから、その時特定の相手がいなくて告白を受け入れた。
藤村は涙を流しながら喜んだ。並の容姿が泣くと酷くなるな、と抱き寄せる事もなく眺めていた。次の相手が見つかるまでのつなぎのつもりだったから。
最初の頃は尽くしてくれて便利だな、ぐらいにしか思っていなかった。
家事が得意で、特に料理は最高だった。胃袋を掴まれるとはこういうことか、と初めて理解した。
正直床上手ではなかったが、一生懸命応えてくれようとする姿は可愛く見えた。
気付けば付き合って1年経っていた。もう離れることなどできない。
こんなに性格が良くて、一緒にいて癒される相手は初めてだった。
最初のコメントを投稿しよう!