幸せ太り

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「今日はね、ヒロくんの好きなスコッチエッグにしたよ。最近、残業続きで頑張ってたもんね。お疲れ様」  夜遅くに帰宅すると、玄関までパタパタと走ってきて笑顔で迎えてくれる。この、顔をくしゃっとした笑顔が堪らない。 「ハル、ただいま。めっちゃお腹空いたから早く食べたい」 「うん、一緒に食べよう」 「いつも言ってるけど、遅くなる時は先に食っててよ」 「僕もいつも言ってるけど、遅くなっても一緒に食べたいから待ってるの」  嬉しいけど、合わせてもらうのは申し訳ない。こんな感情も初めて湧いた。今までは『俺に合わせられない相手なら別れればいい』と思っていた。本当に最悪だった。俺なら、俺みたいな奴とは絶対に付き合いたくない。  手を合わせて、いただきます、と声を揃えて食べ始める。 「めちゃくちゃ美味い!」  一口飲み込んでそう言えば、嬉しい、と満面の笑顔をハルが向ける。この笑顔がもっと見たくて、ハルと付き合ってから食べる量が増えた。 「おかわりもあるからね」 「うん、もう少しちょうだい」  皿にスコッチエッグが追加された。  美味しい料理をたらふく食べて、ハルの笑顔を堪能して、俺は世界一の幸せ者だ。  食事量は増えたのに、デスクワークで動かないから、1年で15キロ増えた。健康診断で医者に、急に増えすぎだ、と指摘された。  まさかここまで増えていると思っていなかった。スーツはワンサイズ大きくなって、スラックスの上に乗った肉を毎日見ていたにも関わらず。  食事制限と運動を指導された。  ハルの作る食事を我慢したくないから、早朝にジョギングを始めた。動いた後の食事が更に美味しく感じられ、朝食の量が増える。これではジョギングの意味がない。  どうしたものか、と考えあぐねる。  そして、はたと気付く。俺は見た目ぐらいしか良い所がない。それが崩れた今、ハルに見限られるのではないか、と。  思い返せば、近頃声をかけられなくなった。今までは街を歩けば、数歩進むたびに男女関係なくナンパされた。今は、アンケートやらティッシュ配りくらいだ。  ハルにカッコいい、と思ってもらえるように本気でダイエットしよう。ハルにもきちんと話して食事を減らしてもらおう。
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