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ホクロはおふくろの味?
河童の朝は早い。
夜明けと共に川に出て、ひと流れするのが1日の始まりだった。
しかし、人間に変身している武藤家は、川で流れる事が出来ない。
「いおり、風呂に入るぞ」
せいぜい、朝風呂を楽しむ事が精一杯だ。
「泳げないけど、やっぱ水は最高や〜」
さっぱりしたいおりは、朝食までの時間を勉強にあてる。あと一週間経つと春休みが終わり、いおりも4年生として学校に通うからだ。
「ええか、いおり。言葉は喋れても、読み書き計算は難しい。長老さまと相談したんやけど、いおりは今まで勉強する機会がなかった子供って設定でいくからな」
「勉強やったら少しは出来るで?」
「人間界の勉強、なめたらアカン!!」
こだまの一喝に、いおりの背すじがピーンとなった。
「ひらがなは楽勝でも、漢字。それと算数。最後に人間のルールや」
「人間のルールって、河童と違うん?」
こだまは、ネクタイに苦戦しているたしりをチラリと見遣ると声を落とした。
「今日お父さんはな、その人間のルールの闇に立ち向かうんや。役所という闇にな!」
「あ……手続きしなアカン役所?」
河童の術を長老から伝授してもらった時、長老は『役所なめたらアカン』と、いおりに言った。
たしりは今日、その役所に向かうらしい。
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