許さない(彼女side)

3/4
前へ
/7ページ
次へ
 三月になり、高校を卒業した。私は地元の大学に、律音くんは隣の県の大学に進学した。  学校に行けば、顔を合わせられた日々が貴重だったことを知る。  律音くんに会えない寂しさが高まって、朝晩の挨拶の他に日中もメッセージを送るようになった。 『天気がいいね』 『空が綺麗だよ』 『たんぽぽの綿毛が飛んでいるよ』 『季節限定のマンゴードリンクが売切れで買えなかった。残念』  綺麗な夕焼け空や道端の花を見つけては、写真を撮って送る。  一日平均五通。ひどいときには二十通送ることもある。完全なるストーカーの出来あがりである。律音くんはさぞや呆れているだろう。  そんな重度の恋愛中毒に終止符を打つ日がやってきた。  大学で仲良くなった友達に、ストーカー事件が起こったのだ。ゴミ捨て場からゴミ袋を持ち去ろうとする男に、友達の彼氏が声をかけた。同じサークルの男子だったからだ。その男子が持ち去ろうとしていたのは、友達が出したゴミ袋。友達に片想いをしていた男子は、家に持ち帰って中身を漁っていたらしい。  人間として最低だと怒る友達からその話を聞いたとき、私は体の震えを止められなかった。  ──律音くんのゴミ袋、私も欲しい。律音くんの生活を知りたい。  自分の中にある欲望に身の毛がよだつ。私は犯罪予備軍だ。このままでは律音くんを傷つけてしまう。   「迷惑をかけるのって、愛じゃないよね……」  ようやく気づいた。目が覚めた。  私がしてきたことは、愛という名の嫌がらせでしかなかった──。  律音くんの連絡先を消去した。それからスマホを解約し、違う電話番号に変えた。  真夏の抜けるような空の下。私は新しく購入したスマホを握り締めて、泣き崩れた。  律音くんの電話番号もアドレスもわからない。履歴もない。  すべてが終わった。同時に私の人生も終わった──。  心にポッカリと大きな穴が開いている。私の世界から、大切な宝物が失われてしまった。この穴が埋まることは永遠にないだろう。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加