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待ち合わせの自然公園、腕時計を確認するとまだ時間があるので、ちょっと身だしなみを見ておこうと鏡を取り出して見る。そこにはコバルトのイヤリングが揺れているのが映っていた。片側だけのイヤリングは彼女とお揃い、二人でひとつという証し。
中学から付き合っているふたつ上の彼女が卒業して大学に進み、なかなか会う時間が取れなくなっていたけれど、メールや電話でのやり取りは続けていた。でも……最近はそれも減ってきて、メールや電話で会いたいと伝えてもサークルで忙しいとか就活があるからとか、と逃げられるばかり。まさか浮気? 否、そんなことあるわけがない、そう私は信じている。
昨晩、突然連絡が来たと思ったら彼女から久しぶりに会いたいと言ってきた。会えるのは嬉しいはずなのになぜか嫌な予感がする。怖い、けど会いたい。
待ち合わせ場所で待っていると、彼女の元気な声がした。
「碧ー! 久しぶりー!」
振り返ると海月が手を振っていて、そして隣には見知らぬ男がいる。
「海月、久しぶり……その人は?」
「紹介するね、婚約者の海斗さん」
婚約指輪を嬉しそうに見せてくる海月、耳元にはコバルトのイヤリングは無い。私はとっさに海月を連れ出した。
「なんで、イヤリングしてないの? 私のことは……?」
「ごめん、今はもう碧に恋愛感情持ってない」
数分後二人と別れて帰宅した。
出会いを要約すると、大学生になって、サークルに入って、飲み会に参加して、意気投合して、そのままひとつになって、数年で婚約まで進んだ。
たった知り合って数時間の奴に身を許した事も、それだけで婚約までする事も、信じられなかった。私との甘い思い出はそんなに簡単に捨てられるものだったの?
帰って早々に部屋に引きこもってベッドに突っ伏した。
悔しい、悲しい、恨めしい、呪いたい、そんな心情の自分、心変わりなんて無いと信じて疑わなかった自分には、愚者と言う言葉がお似合いだと、この時心底思った。
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