気付いた

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 私はその人の名前を記録でしか知らない。 彼は、確かに私の大切な人だった。 思い出そうとして出てきた声が、顔が。 いつの間にか、別の人とすり替わっていて、恐怖を感じる。 でも、覚えていることもあって。 その人の手は温かくて……。 あの日、握りしめてくれたあの子の手と、同じ体温だった。 『俺さ、夏好きなんだよね』 私を見る無邪気な目、笑い方。 『なぁ、今日もあそこ行こーぜ!』 見下ろす暖かな視線。 『……なぁ、俺さ お前のこと……』 ……あれ? 塗りつぶしていた記憶が、暖かな記憶に変わった時、私は気づいた。 ーーー私は、彼が好きだったのか?
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