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彼女も分かっているはずだろう。
その人はもう……死んでいると。
「でも、先生
あの人は馬鹿じゃなかったんだ
違うって、思ったんだ
私の手を握ってくれた、あの子のいる夏が
記憶でも記録でもないあの子が
当たり前のことを教えてくれた」
診察室の窓から外を見ると、少年が遊んでいた。
あぁ、きっとあの子のおかげか。
「夏の空は青いんだって
教えてくれたんだ」
眼の前の彼女の瞳が、朱から蒼に変わる。
月のように澄んだ瞳は、日陰に照らされて美しく輝いていた。
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