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イケメンと映画だなんてイレギュラーやらかしたせいか、神様は再びミスってしまったらしい。池亀レナの人生に落とし物をした。
地元に捨ててきたはずの過去を。
「うわ、あれ池亀だろ」
耳障りな声が、映画館の喧騒をくぐり抜けて刺さる。振り向くと高校生カップルが。
彼氏の方がニヤニヤ笑っている。忘れるはずがない、中3の時に同じクラスだった男子だ。
名前は水沢。当時はクラスの人気者だった。似合わない髪型に流行の服が痛々しい。
「は? え? 誰?」
彼女さんは突然始まった悪口に困惑している。しかし空気の読めない元クラスメイト水沢は、面白いと思ったのか続けてしまった。
「中学一緒だったキモいやつ。ぼっち映画とかキモすぎ」
隣の加賀には気づいてない様子。わざわざ東京デートで人の悪口言うことないでしょ、と思っていたら横からツンツンされた。
「おい池亀、なんだあいつ」
加賀も顔をしかめていた。私は呆れてささやいた。
「同じ中学だった水沢ってヤツ。ほっといていいよ」
不思議と嫌な気持ちはしなかった。だって今は加賀と一緒だから。ここにはいないけど鈴音や穂村という友達もいる。先生というメンターもいる。
何も怖くない。下がるのはクソ野郎の株だけ。こりゃ彼女にフラれるな。
去年同じクラスにいた時は怖く見えた。でも今見るとちっとも驚異に感じない。虫籠を抜け出したからだ。
私は前を向いて列が縮まるのを待った。国木田に早く会いたいなあ♪
でも加賀は違った。
「おい、そこのクソゴミ野郎。さっきからうるせーよ」
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