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 両手に手錠を嵌められた木場は、パトカーの後部座席に乗せられ池袋警察署に移送されていた。銃刀法違反の現行犯逮捕だ。木場は想定通りの展開に安堵していた。警察に勾留されれば尾藤たちは自分に手出しが出来ない。ホテルのバーで尾藤が話した犯行計画は、こっそりスマホのアプリで録音していた。紙ナプキンにメモを取ったのは、尾藤の目を欺くためだった。この録音を警察に提供し、洗いざらい喋るつもりだ。尾藤や手下の何人かも、間違いなく起訴されて刑務所行きだろう。自分はただ脅されて従わざるを得なかったと言うつもりだ。もっとも、三百万円を受け取ったことは警察には秘密だ。おそらく尾藤も警察に言わないだろう。まだ残りが二百八十万円もある。優花がメジャーデビューを叶えたら、デビューシングルのCDを百枚、大人買いするつもりだ。ファン第一号としては当然の責務だ。そして残りの金で興信所を雇い由美子と心陽を探す。もう怖い物もないし失う物もない。ようやく、人生のリスタートが切れる。木場は車窓の街並みに目をやった。陽光に白く輝く池袋の街が、明るい未来に続いているように見えた。 — 終 —
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