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「あれ? 木場さん?」
ある日、駐車場から出てきた黒光りするセダンを誘導していると、リアウィンドウがすうっと降りて後部座席の男が声をかけてきた。
「尾藤ですよ」
言いながら男が黒いサングラスを下にずらした。右の瞼からこめかみにかけて細い傷がある。忘れるはずが無い顔だった。
「あ……ご無沙汰してます……」
「木場さんお変わりないですか?」
「ええ、まあ……」
引きつった愛想笑いで答えたとき、ブーッとブザーが鳴り後続の車が駐車場のスロープを上がって来た。
「すみません尾藤さん、後ろがつかえてますので……」
「ああ」と尾藤はスーツの内ポケットから名刺入れを取り出し「これ、また連絡しますよ」と木場に名刺を手渡すと、木場の誘導で国道を走り去った。
後続の車を国道に送り出した後、木場は胸ポケットから尾藤の名刺を取り出して眺めた。誰からも存在を認識されない警備員のはずが、よりによって尾藤に見つかるとは。木場は動揺を隠せなかった。
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