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 翌週から尾藤に紹介して貰った幾つかの会社の経理を見るようになった。妻には知人の紹介で職が見つかったとだけ伝えた。月給は手取りで四十万弱と悪くなかった。  会社は全て暴力団のフロント企業で幅広く事業を手がけていた。飲食、不動産、運送、廃棄物処理業などだ。どの会社も代表や役員は組員ではなく、組員の妻や愛人、木場のような一般人の名前のため表向きは普通の会社に見える。実際、新卒を採用している会社もあり、大学のキャリアセンターに求人票を送り、なんら問題なく学内に掲示されていたようだ。木場は毎月の給料で借金を返済し大量出血の止血の目処がついて安堵していたが、それも長くは続かなかった。どの会社も二重帳簿を作成し脱税していたのだ。木場が計算したところ、ざっと十億円の脱税だった。ここでようやく()められたと気付いたが時すでに遅し、全ての会計責任者の名義が木場になっていた。まもなく国税査察部(マルサ)が入り、木場は脱税容疑で逮捕起訴され、九ヶ月後、懲役四年の実刑判決が下った。マルサに踏み込まれた後、木場は妻子の前から姿を消し、妻の由美子に署名捺印済みの離婚届を郵送した。携帯番号も変えて、由美子からは連絡が取れないようにした。妻子を守るためにはこれしかなかった。木場が罪を被り懲役を食らえば妻子には手を出さないと尾藤は約束した。それ以降、由美子と心陽がどこでどのように暮らしているのか、木場は知らない。毎晩のように夢に出てくるが、妻も娘も十六年前の姿のままだ。
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