隣の少女

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 それは3月の下旬の事だった。この時期は春休みで、子供たちは家にいた。そして、来月の新学期に向けた勉強をする子もいれば、テレビゲームをする子もいた。  藤崎哲人(ふじさきてつと)の住む家の隣は、騒然となっていた。先日まで空き家だったが、騒然となっている。何だろう。まさか、引っ越しかな? 「あれっ、引っ越し?」 「そうみたいね」  哲人と母は2階からその様子を見ている。引っ越し業者のトラックがいるので、引っ越しだと確認した。どんな人が引っ越してきたんだろう。気になるな。 「どんな人だろう」 「わからないね」  と、インターホンが鳴った。こんな時間に誰かが来るのは珍しい。誰だろう。 「はーい」  母はドアを開けた。その向こうには女性がいる。女性はお土産を持っている。 「今日から隣に引っ越してきました、六名(むつな)と言います。よろしくお願いします」 「あらあら。こちらこそ」  どうやら隣に引っ越してきた人のようだ。それにしても、美しい女性だな。 「こちら、つまらない物ですが、お土産をどうぞ」 「ありがとうございます」  女性はお土産を渡した。受け取った母は喜んでいる。  女性はドアを閉め、家を去っていった。哲人はその様子を、後ろでじっと見ていた。 「そっか、六名さんか。仲良くしたいわね」 「うん」  哲人と母はリビングに行った。そのお土産を開封するためだ。何が入っているんだろう。気になるな。 「これがお土産?」  2人はリビングに座った。母はお土産の包み紙をあけた。中にはせんべいの詰め合わせの箱がある。 「せんべいだ!」  2人は箱の中にあるせんべいを取り出し、食べ始めた。 「おいしい!」 「うん。なかなかおいしいね」  ふと、母は思った。きれいな女性だったけど、家族はどうなんだろう。気になるな。 「どんな人だろう」 「全くわからないわ」  と、哲人は考えた。春休みが近くなった頃、転校生がやって来ると先生が言っていた。その名字を思い出した時、何かを感じた。 「まさか・・・」 「どうしたの?」 「今月から転校生がやって来るって聞いたんだけど、ここの子かな? 六名理恵(むつなりえ)っていうらしいんだけど」  母は驚いた。まさか、ここの子だろうか? 哲人の同級生になるのかな? もしそうなら、いい友達関係を築いてほしいな。 「そうかもしれないね。まさか、隣に転校生が引っ越してくるとは。まぁ、仲良くなれたらいいね」 「うん」  2人は来月の始業式を気にしていた。どんな子がやって来るんだろう。楽しみだな。  そして来月7日、始業式の日。今日から小学校は再開する。祖いて、新年度が始まる。以前のクラスに行ってしまう子がいて、混乱している人もいる。  哲人のクラスには、今日から六名理恵という転校生がやって来るという。その噂は、生徒の間で気になっていた。どんな子なんだろう。早く仲良くなりたいな。  と、そこに担任の先生がやって来た。その後ろには、可愛い女の子がいる。この子が、六名理恵だろうか? 「えー、こちらが今日からこの学校に来ました、六名理恵さんです。皆さん、仲良くしてくださいね」  すると、理恵は照れ臭そうにお辞儀をする。 「よ、よろしくお願いします」  それを見て、哲人はワクワクしていた。この子が隣に住んでいる子なんだな。早く仲良くなりたいな。 「あの子、知ってるの?」  哲人の隣の席の中村が話しかけた。哲人の表情が気になったようだ。 「うん。僕の家の隣」  中村は驚いた。まさか、哲人の家の隣に引っ越してきた家族の子だとは。何という偶然だろう。 「そうなんだ。一緒に帰ったらどうだい?」 「いいね」  そして、下校の時間になった。哲人はいつものように帰っている。その前を、理恵が歩いている。とても可愛い子だな。隣に住んでいる事だし、この子と仲良くなりたいな。 「ねぇ」  理恵は振り向いた。そこには同じクラスの哲人がいる。 「どうしたの?」 「僕、隣に住んでるんだけど、一緒に帰らない?」  理恵は驚いた。まさか、隣に住んでいる子が同級生だとは。 「うん。いいけど」  2人は一緒に並んで歩きだした。2人とも、楽しそうだ。このことなら、仲良くなれそうだな。理恵は期待していた。 「まさか、哲人くんが隣に住んでるとは」 「僕もびっくりしたよ。転校生がやって来ると聞いてたんだけど、まさか隣に引っ越してくるとは」  ふと、哲人は気になった。以前はどこに住んでいたんだろう。 「ふーん。前はどこに住んでたの?」 「大阪」  大阪に住んでいたとは。大阪は何度か行った事がある。特に、造幣局の通り抜けの桜を見た事がある。とても感動的だったな。 「そうなんだ」  と、哲人は藤崎家の前にやって来た。ここでお別れだ。だが、隣だから、あんまり気にしていない。 「じゃあね、バイバイ」 「バイバイ」  哲人は玄関に向かっていった。その様子を、理恵はじっと見ている。 「ただいまー」 「おかえりー」  母がやって来た。母はエプロンを付けている。お昼ごはんを作っているようだ。 「やっぱりあの子だった」 「そう。仲良くなれたらいいね」 「うん」  哲人はすぐに2階に行った。荷物を整理して、しばらく休憩するようだ。母はそんな哲人の後姿を見ている。やはりあの家族の子は、哲人の言っていた転校生だったんだな。  その夜、哲人は寝ようとしていた。テレビゲームは楽しいが、明日も小学校だ。しっかりと寝て、明日に備えないと。 「さて、今日も寝るとするか」  と、何かの物音に気が付いて、哲人は気になった。窓をノックしているようだ。窓の先には屋根がある。こんな所からノックするなんて、誰だろう。危ないのに。 「ん?」  哲人はカーテンを開けた。そこには理恵がいる。そして、顔の後ろを見て、哲人はゾクッとなった。何と、首が伸びている。えっ、えっ、どういう事? 哲人は腰を抜かした。 「ねぇ哲人くん・・・」 「うわっ・・・」  理恵は笑みを浮かべた。首が伸びているのが普通のようだと思っているようだ。 「これからよろしくね」  理恵の首は縮み、顔は隣の家の窓の中に入っていく。ま、まさか、ろくろ首? 哲人はいまだに動揺を隠せない。
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