1-2 4月15日のデートではぜる

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 『世界館』を出たとき、太陽はだいぶ西に傾いていましたが、夕食にはまだ早い時間です。  駅近くの商業ビルに入っている、洋服やアクセサリー、コスメのお店をぶらぶら見ながら時間を潰します。  私的には、時間を潰している感覚じゃないけどね。貴重で甘い砂糖菓子を、ゆっくり舌で溶かす時間――ほんとに魔法みたいな、綺麗な時間なんです。 「機嫌がいいな」 「私が、穂さんと一緒で不機嫌だったことあります?」 「ない」 「でしょー?」  ご機嫌な私を見て、ふっ、と珍しく穂さんが笑い声をたてました。リラックスした柔らかな声に、私は砂糖菓子をお皿いっぱいにお代わりした気分です。  だけど、魔法の時間はあっという間に過ぎて、ついに館内放送が夕方6時をお知らせしました。 「そろそろ、飯食うところ探すか」  私の門限が9時だから、どうしても夕食の時間は早くなります。  6時なんて、大学生にとってはまだ全然、恋人を返す時間じゃないはず……申し訳ないような、淋しいような気持ちが、急にころんと転がります。 「千春、どうした?」  穂さんが、私を見つめました。『気遣いが下手』と自己申告する彼は、それでもじゅうぶん気遣い屋さんです。私はそっと、小指の先で彼の手の甲に触れました。 「今日、楽しかったです?」 「俺が千春と一緒にいて、つまんなそうな顔してたことあるか?」  ふふ、と今度は私が笑い声をたてる番でした。 「ありますね」 「……」 「穂さんは、表情筋が死にがちだから。顔だけ見ればつまんなそうですが、でも楽しんでいるのは伝わりますよ。そんなところも最高に素敵です」 「そうか。ならいい」  私の暴言を気にせず、穂さんは私の手を握ってくれました。穂さんの手は大きくてゴツゴツしています。  指を絡めるといつも、そこからほんのり、彼の体温が移ってきて――その瞬間、『穂さんに恋してる』という想い以外、私の中から消えてしまう。  彼だけが、私の心の中にいて、それがとっても幸福です。 「お夕飯は穂さんが食べたいものにしましょー。なに食べますか?」 「魚」 「昼間のハゼ引きずってますね!?」 「千春が急にハゼって言ったから」  私が言ったのは『爆ぜそう』だけどね、いいです、『可愛いから許す』ってやつです。  でも……漢字に弱いところは、父さんたちには黙っておこうかな。    正式に交際を認められるときまで、穂さんの可愛いところは私だけの秘密!
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