1-3 4月18日の彼と彼女の日常

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1-3 4月18日の彼と彼女の日常

★穂さんの場合  俺が通う神奈川学院大学、通称『神学(じんがく)』は世にいうFランク大学だ。  沢塚駅から私鉄で一駅、徒歩でも二十分圏内に校舎を構えているくせに、高校生から不人気なことこの上ない。  もちろん真面目な学生もいるが、頭がいい大学よりは見た目が派手な奴が多いんじゃねぇの? まあ知らねぇけど、とあくびしつつ教室に入る。  教室にはいつもつるんでる友達がいて、俺の分の席もとってくれていた。   「穂、おはよ。眠そうだな、二限からのくせに」 「はよ。何限からだろうと眠ぃもんは眠ぃ」  席に近づくと、眞壁(まかべ)が話しかけてくる。長めの茶髪がよく似合うイケメンだ。頭がいいのになんでこの大学にいるんだ? 性格が悪いからか? 「なー、スイー。合コンの人数足らねぇから出てくんね? 場所、横浜だけど」 「行くわけねぇだろ」  幹彦(みきひこ)がアホな提案をする。名前は上品だけど、実際の幹彦は頭が悪くて、金髪で、女好きで、頭が悪い。 「空くんが横浜の合コンに行くわけないでしょ。『ハマの裏番』なんだから」  竜が俺のダサすぎる二つ名を茶化す。ピアスと首筋のタトゥーを無視すれば、俺たちの中では一番穏やかに見えるが、ケンカがめちゃくちゃ強い……俺たちは4人揃ったときの圧がヤバいことで、同期から有名らしい。全然嬉しくねぇ。 「んなダサいあだ名、誰も覚えてねーって。ルイも来るんだしお前も来いよ、一文字違いだろ~?」  幹彦は手を合わせて俺を拝みながら、うだうだ言っている。確かに俺は『(すい)』で、眞壁は『(るい)』だけど、それは合コンに行く理由にならねぇだろ。席に着いて、講義の準備を始めながら幹彦に話しかける。 「その理屈、意味不明。つーか眞壁が行くなら幹彦は負け確じゃねぇか」 「なー。それに幹彦、最近合コン負け続きなんだろ? アプリにしとけよ」 「いやいや、幹くんそっちのが無理でしょ。だってメッセから下心見え見えだもーん」 「そんなことねーし! スイー、来てくれよぉ。奢るからー」  しつけぇな。俺が反論する前に「あーそっかぁ」と竜が声を上げた。 「空くん、彼女とまだ続いてるの? なんだっけ、平藤南の女子高生だっけ?」 「ああ。だから横浜じゃなくても合コンには行かねぇ」 「……」  明確な憎しみを込めた眼差しが、幹彦から届く。そんなバカの肩をポンポン叩いて、眞壁が「へーすげぇじゃん」と笑う。 「平藤南みたいな頭いい学校のJKが、よくお前と続いてるよな。しかも彼女ちゃん、清楚系の美人なんだろ? そんなん男選び放題なのになー」 「清楚な美人JK……なぁスイ、彼女ちゃん中身最悪だったりしない?」 「しねぇよ」 「おいこら幹くん、そういうとこだぞー」  今度は竜に頭をポカリと叩かれた幹彦は、ますます俺への憎しみを深めたようだ。ギリギリと唇を噛み、更に千春の情報を要求する。 「性格はどんな感じなん!? やっぱおしとやかー、って感じ?」  そのイメージで語られんの、千春は嫌がりそうだな。 長い黒髪、白い肌、控えめな化粧。千春を見たら、大半の男は『清楚な美少女』『大人しそう』と思うだろう。だけど、俺が千春の性格を一言で説明するなら。 「そうだな……『天』から始まる四字熟語あるだろ?」 てん、てん……漢字四文字……ああ、思い出した。 「天下一品」 「それラーメン屋」 そうだった。眞壁はいつも的確に突っ込んでくれる。 「もしかして『天真爛漫』?」 「それ」 正解を答えた竜と、地頭がいい眞壁は千春の性格を察したようだが、幹彦はダメだな。ポカンとしてやがる。  とはいえ、俺も『天真爛漫』の意味を理解しているかは怪しく、スマホで検索して幹彦に見せてやった。
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