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私は……中学校のとき、一度だけ、周りのみんなに勧められて、男子とお付き合いをしたことが、あります。
同級生だった元カレは、私の子供っぽいところが嫌いみたいだった。
泥だんごを作る、カナヘビにはしゃぐ、クモの巣を見つけると写真を撮る、ファミレスの間違い探しにノリノリ、ご飯のお代わり――そういうことすると、ちょっと嫌そうな顔してたよね。
謎の単位を生み出して教科書にマーカーするなんて、元カレ的にはナシでは?
す、穂さんは……今のところ、私の言動に引く素振りは、ないけど……こういうの、『重い』『キモイ』って、感じちゃうかも……?
「ごめん、なんか、余計なこと言っちゃったね」
マリちゃんが焦って付け加えてくれますが、私の心は決まりました。蛍光ペンのキャップを閉め、教科書を机の中にしまいます。
「ううん、マリちゃんの言う通りだよ」
「え、別に迷惑をかけるわけじゃないし、教科書見せなきゃ気付かれないじゃん?」
それもまた、その通りです。私の教科書を穂さんに見せるシチュエーションが思いつきませんから、黙っていればマーカー大作戦が彼にバレることはないでしょう。
でも、必要のない秘密を増やしたくありません。秘密なんて言葉を使うほど、大仰なことではないとしても。
「ううん。私、ちゃんと穂さんに聞いてからマーカーする!」
「……聞くの?」
聞きます。まだ、穂さんとお付き合いを始めて2か月足らず。コミュニケーションは大切。引かれるのはちょっと、怖いけど。
「ハル……無責任な応援しかできないけど、頑張って」
優しく私の肩を叩くマリちゃんは難しそうな顔をしています。マリちゃんのそんな顔、数学の難問を解くときしか見たことないんだけどな。
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