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「いつも私を大切にしてくれる穂さんを、私だって大切にしたいんです。言えることはなんでも言ってください」
「ああ」
素直にこっくり、頷く穂さん。はぁ、クリームソーダを飲む穂さん、一生見ていられる……でも、わざわざバイト前に私を呼び出したのはなんでかな?
「そういえば珍しいですね、バイト前に会おうなんて」
穂さんは居酒屋のキッチンでバイトをしています。応援に行けないのが残念。バイト中の穂さんも絶対、とっても素敵なのに。
「ちょっと先だけど、プレゼント、渡しとこうと思って」
「……へ?」
まさか? まさかまさかまさか!?
驚愕する私の前で、穂さんは大きめのトートバッグから紙袋を取り出しました。有名なコスメブランドのロゴが入った、愛らしい薄桃色の紙袋です。
「誕生日おめでとう。30日に、またメッセ送るな」
差し出された紙袋を、受け取る手が震えます。穂さんは小さな笑みを唇に浮かべて、私の反応を見ています。見ていて、くれています。
「……あ、あの、覚えていて、くれたんですか?」
「千春も俺の誕生日覚えてるだろ?」
「そりゃあ、覚えてますけど……っ!」
だって、一回しか言ってない!
4月30日が誕生日だなんて、私、あなたと出逢った日に伝えたきりなのに!
『空峰穂さん。いいお名前ですね! 秋生まれですか?』
『そう。10月15日』
『つい最近ですね、おめでとうございます!』
『どーも。木島は春生まれ?』
『はい、4月30日です』
あの、一回。たった一回。
私が、あなたの誕生日を覚えているのはわかる。
あなたに恋をした、私だから。
あなたに関わる全部が宝物になった、私だから。
「……うっ、す、穂さぁーん」
でも、あなたは違うはずなのに。
どうして、私の誕生日を、ずっと忘れないでいてくれたの?
「泣くな」
「泣いてません!」
ギリッギリで耐えました、危ない危ない。
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