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「どうしました?」
私の問いかけには答えずに穂さんは。
身体をかがめたかと思うと――急に、柔らかな感触と温度が、私の額に降ってきて。
「……っな、あの、ななななんで」
上手く言葉も出てきません。
ただ、額に唇が触れただけ。
世界で一番恋しいあなたの、薄い唇がほんの一瞬、触れただけ。
それだけで、額に残った余熱で私が全部、溶けちゃいそうで。
「千春が喜ぶと思ったから」
「よ、喜びすぎて、その、えっと」
穂さんは、じっと私を見下ろしていました。
いつもとおんなじ無表情、でも眼差しがほんのりと、暖かいような、柔らかいような。
「千春が笑うと、俺も嬉しいと思う。まだ『恋』には遠いかもしれねぇけど、これはちゃんと、俺の心だ」
一方的に爆弾を投げつけて去っていく穂さんを見送ったら、部屋に直行して、袋に入っていた箱を取り出しました。
綺麗なラベンダー色のリボンを解いて、箱を開けると。
「ネイルオイルとハンドクリーム……! しかも新作!!」
なんて最高のチョイスでしょう! ちらっと『乾燥肌なんですよねー』みたいな話をしたの、覚えててくれたのかな? さすが穂さんだね。それに、額にキ、キスまでしてくれちゃったし……わぁ、また体がポカポカしてきた。
こうなったら踊るしかないよね!? とベッドに立ち上がろうとしたとき、紙袋の底に入っていたカードに気が付きました。急いで取り出します。
「これって……」
メッセージカードだ!
踊るのはいったん止めにしましょう。ベッドに腰を下ろして、整った手書きの文字を指でなぞります。
『誕生日おめでとう。
来年も、千春の誕生日を祝いたい』
とても簡潔で彼らしくて、あんまり嬉しすぎるメッセージに、私は「ふふっ」と幸せな笑いを零して……そして、気が付きました。
このメッセージカード、本屋さんで見かける、塗り絵メッセージカードだ!
じゃあ……このお花もリスもアゲハチョウも、全部、穂さんが色を付けてくれたの?
もしかして、この前買った、色鉛筆で?
わざわざ?
私の、ために?
丁寧だけど少しはみ出しもあって、それがとっても愛おしい……まだ付き合って2か月も足らずだけど、このメッセージカードには私たちの思い出が、ぎゅっと詰まっていました。
穂さん。
来週も、来月も、半年後も、来年も、その先も、ずっと、ずっと、ずっーと、一緒にいたいです。
そして、いろんな思い出を積み重ねて、いつか、そう、できれば遠すぎない未来で。
「あなたと二人で、恋をしたい」
呟いた私は、ちょっぴり泣いていました。
嬉しいときに流す涙もしょっぱいのが不思議です。
こんなにも心臓は甘く、とくとくと鳴いているのにね。
穂さん、最高の誕生日をありがとう。
10月、楽しみにしていてくださいね。
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