1-4 4月28日、ふたり、はじめての誕生日

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「どうしました?」  私の問いかけには答えずに穂さんは。  身体をかがめたかと思うと――急に、柔らかな感触と温度が、私の額に降ってきて。 「……っな、あの、ななななんで」  上手く言葉も出てきません。  ただ、額に唇が触れただけ。  世界で一番恋しいあなたの、薄い唇がほんの一瞬、触れただけ。  それだけで、額に残った余熱で私が全部、溶けちゃいそうで。 「千春が喜ぶと思ったから」 「よ、喜びすぎて、その、えっと」  穂さんは、じっと私を見下ろしていました。  いつもとおんなじ無表情、でも眼差しがほんのりと、暖かいような、柔らかいような。 「千春が笑うと、俺も嬉しいと思う。まだ『恋』には遠いかもしれねぇけど、これはちゃんと、俺の心だ」  一方的に爆弾を投げつけて去っていく穂さんを見送ったら、部屋に直行して、袋に入っていた箱を取り出しました。  綺麗なラベンダー色のリボンを解いて、箱を開けると。 「ネイルオイルとハンドクリーム……! しかも新作!!」  なんて最高のチョイスでしょう! ちらっと『乾燥肌なんですよねー』みたいな話をしたの、覚えててくれたのかな? さすが穂さんだね。それに、額にキ、キスまでしてくれちゃったし……わぁ、また体がポカポカしてきた。  こうなったら踊るしかないよね!? とベッドに立ち上がろうとしたとき、紙袋の底に入っていたカードに気が付きました。急いで取り出します。 「これって……」  メッセージカードだ!  踊るのはいったん止めにしましょう。ベッドに腰を下ろして、整った手書きの文字を指でなぞります。 『誕生日おめでとう。  来年も、千春の誕生日を祝いたい』  とても簡潔で彼らしくて、あんまり嬉しすぎるメッセージに、私は「ふふっ」と幸せな笑いを零して……そして、気が付きました。  このメッセージカード、本屋さんで見かける、塗り絵メッセージカードだ!    じゃあ……このお花もリスもアゲハチョウも、全部、穂さんが色を付けてくれたの?  もしかして、この前買った、色鉛筆で?   わざわざ?  私の、ために?  丁寧だけど少しはみ出しもあって、それがとっても愛おしい……まだ付き合って2か月も足らずだけど、このメッセージカードには私たちの思い出が、ぎゅっと詰まっていました。  穂さん。  来週も、来月も、半年後も、来年も、その先も、ずっと、ずっと、ずっーと、一緒にいたいです。  そして、いろんな思い出を積み重ねて、いつか、そう、できれば遠すぎない未来で。 「あなたと二人で、恋をしたい」  呟いた私は、ちょっぴり泣いていました。  嬉しいときに流す涙もしょっぱいのが不思議です。  こんなにも心臓は甘く、とくとくと鳴いているのにね。  穂さん、最高の誕生日をありがとう。  10月、楽しみにしていてくださいね。
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