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本日は火曜日、放課後には塾があります。そして、彼がお迎えに来てくれる日でもありました。
「穂さーん! お待たせしました!」
深夜のコンビニがよく似合う穂さんは、銀髪ピアスバチバチ大学生だから、一見怖い人と思われがちです。
でも、実際は天然さんでちっーとも怖くない! それに、彼は私の行動を伝えても、『は? 変なの』とは言いません。
美術部での制作のために寝言を録音した、とお話すると、穂さんは無表情で、
「寝言……そんな風にアイディアを出すんだな」
と呟きました。表情の変化が少ない人ですが、怒っても退屈してもいません。穂さんは、表情筋が休みがちなのです。
「たまーにこういう方法を試すと、面白い作品ができたりするんです!」
「へえ。今回は面白い作品を作れそう?」
「はい! ……よろしければ、穂さんも寝言の聞き取りに協力してくれませんか?」
「わかった」
やったぁ! 我が家に着いたら、玄関先でスマホのアプリを起動します。
穂さんは真剣な表情で、何度か録音を聞いてから、おもむろに呟きました。
「……すっぽん、たまちゃん文明」
すっぽん……スッポン!? カメ目の!?
私の頭に稲妻が落ちました。つい穂さんの顔を見つめます……わぁ今日も穂さんはカッコイイ、じゃなくて!! そうだけどそうじゃなくて!!
「『スッポンたまちゃん文明』ですか!?」
「ああ、『スッポンたまちゃん文明』」
「スッポンたまちゃん文明!!」
大きくバンザイをしました。穂さんは不審な言動を繰り返す私に引く素振りもなく、
「スッポン使えそう?」
と聞いてくれたので、私はバンザイしたままにっこりします。
「はい! 『世界はカメに支えられている』という伝承は、さまざまな国に伝えられているそうです。だから、ヒポポたまちゃんの文明は、スッポンに支えられた世界の上に築かれたのでしょう!」
穂さんに、私の笑顔が伝染したのでしょうか。彼はほんのりと唇の端を上げて微笑んでくれました。
「きっと、楽しい文明なんだろうな」
わぁ、制作意欲がメラメラと湧いてきちゃう言葉だなぁ! 早く楽しいヒポポたまちゃん文明を築きたい! 私は穂さんにお礼を言い、手を振って家に入ります。
さてさて、ヒポポたまちゃんたちは、スッポンに背負われた世界の上で、いったいどんな楽しい文明を築くのでしょうか。
きちんと文明を築けたら、穂さんにも見てもらいたいな、と思いながら、私は元気いっぱいに「ただいま!」を叫ぶのでした。
☆小話その1【おわり】
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