10人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
☆小話その4『ふたりの、誕生日当日』
「千春、もう寝たほうがいいんじゃないか? 無理して起きてなくても」
「無理してないし」
あと30分で、4月30日。
私は晴れて17歳となります。
世界で一番恋しい彼氏、穂さんは本日、バイト中。彼のバイト先は居酒屋なので、閉店時間は24時です。ただ、今日は少し早めに上がれるらしく……『千春さえ大丈夫なら通話するか?』とお誘いいただきました!
だから、起きているのです。起きていなければならないのです!
「いや眠そうだぞ? こんな深夜に電話させようなんて、」
「私が! 穂さんとお電話したいの!」
リビングに降りたのが間違いだった……父さんと母さんはもう寝てるからいいのですが、問題は兄さんです。普段は滅多に飲まないハーブティーをわざわざ用意してまで私に干渉してくるの、ホントにウザい。
「明日は休みだし、夜更かししたっていいでしょ。もう高校生なんだから」
「まだ高校生だろ。明日の朝話すんじゃダメなの?」
「日付が変わった瞬間に話すほうが、特別な感じするじゃん!」
「錯覚じゃない?」
「じゃない!」
兄さんと、結婚して家を出ている姉さんは、両親よりも強硬な、穂さんアンチです。
私はまだブツブツ言っている兄さんを放って、自室へ引き上げました。はぁ、シスコンのことは忘れようっと。自室でマンガを読んでいると、しばらくしてピコン、と通知の音がしました。
『話せるけど、どう?』
穂さんだぁ! 私は高速でお返事を入力します。
『大丈夫です』
『通話つなぎますね』
『ビデオ通話でいいですか?』
『ああ』という返信がきたら、電話マークをタップして、コール音が1回、2回。
「穂さん、こんばんは!」
「こんばんは」
四角く切り取られた画面で、穂さんが礼儀正しく頭を下げます。
「バイト、お疲れ様です。眠くないですか?」
「ああ。まだ寝る時間じゃねぇから。千春こそ、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、元気いっぱい!」
両手で大きく手を振りました。穂さんはお上品に片手を軽く振り返してくれました。なんだか可愛い仕草です。
「ご両親は? なんか言われなかった?」
「父さんと母さんは平気です。兄さんが絡んできましたが、問題ナシ」
「まあ、お兄さんも心配なんだろ」
穂さんは、いつも通りのスーパークールイケメンフェイス。兄さんよりも年下の彼は、落ち着き払っています。もっと兄さんにイラついてもいいんだけどなぁ。
「通話するだけなのに、なにが心配なんでしょう?」
「変な奴もいるからな」
「でも、穂さんは変じゃないです。見た目がチャラくて、元ヤンなだけです」
「そこが心配なんじゃねぇの」
「だからって……うぅーん、とりあえず、兄さんの話はいいです。穂さんの話をしたいです!」
私はパン、と手を叩いてシスコンの話を切り上げます。穂さんは少し首を傾げました。
最初のコメントを投稿しよう!