春愁1

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春愁1

 誰かの頭の中で作り上げられる私は、優しくておとなしくて、尽くしてくれて、守ってあげたくなる美人、らしいんですけど。  本当の『私』は、そんなんじゃありません。  毎朝ラジオ体操をするくらい元気だし、絶叫マシンもお化け屋敷も大好き。  虫も全然怖くないし、ていうか、好きだし。今年の美術製作のテーマはセミにしたものね。セミの抜け殻を、毎年たくさん集めてて良かった。 「木島(こじま)さんって……なんか、イメージと違くね?」 「あーアレ、惜しいよな。喋んないほうがモテるタイプね」 「付き合ってもあの感じ、変わんねぇのかな。それはキツいよなー」  そんな会話を耳にしても、『はいはい』って感じだったので。  高校1年の10月現在、私に彼氏はいないし。  そもそも、『恋』さえ知らないし……でも知る必要も、感じない。  だって、彼氏がいなくても、恋を知らなくても、ピカピカの泥だんごやファミレスの間違い探し、道路で見かけるカナヘビとかジョロウグモの巣とかが、今日も私の世界を色づけてくれる。  私の毎日はじゅうぶん満たされていて、無理に『恋』を探す必要なんてない。  それでも私が合コンの誘いを承諾したのは、小学校からの大親友、レイちゃんこと白浜鈴奈(しらはまれいな)ちゃんからの誘いだったから。 「ハルちゃん、明日ヒマ!? 合コン来ない!?」  ある日の夜、レイちゃんから、急な通話がかかってきたのです。  合コンって言っても、放課後にファミレスに集まってお喋り的なノリみたいだけど……でも男性陣がみんな、大学生!? すごいなぁ。 「うちね、兄ちゃんの友達で気になってる人がいるの! 兄ちゃんと同じ大学2年生だけどぉ、兄ちゃんと違ってめっちゃ落ち着いてる人なんだ。でさぁ、それを聞いたうちの高校の友達も、大学生と繋がりたいーってなって、じゃあ合コン、みたいな?」  そんなノリで合コン開けるんだ。さすが恋愛強者レイちゃん。 「でも幹事は兄ちゃんだしー、集まった男の人たちも、みんなバスケサークルだから、うち的には顔見知りだしー」  レイちゃんのお兄さん、白浜元輝(げんき)さんは、神奈川学院大学に通う元気な大学2年生で、バスケサークルのキャプテン。その人望で、合コンメンバーを集めらたのかなぁ? 「レイちゃんが気になってる人も、バスケサークルなの?」 「そー、副キャプテンの松田さん! 写真送るね!」  すぐにシュッとした、穏やかそうなおにーさんの写真が送られてきました。隣に元輝さんが写りこんでいるせいか、松田さんはとても大人びて見えます。うん、レイちゃんの好みド真ん中、って感じの人だ! 「松田さん、めっちゃカッコいいっしょ?」 「うん、オシャレなカフェにいそうな人だね!」 「でしょー? ね、ハルちゃんは大学生の彼氏、欲しい?」 「うーん、大学生の彼氏より、虫を素手で掴める彼氏が欲しいかなぁ」  適当なようでマジな要望に、レイちゃんは「ふふっ」と笑います。 「ハルちゃんらしいねぇ。そんな人がいるかどうかはわかんないけど、来てくれる?」 「どうしよっかな……」 「付き合うまでいかなくても、友達が増えるのはいいことじゃん? どうかな?」  妙に粘るレイちゃんに、私は気づきました。  もしかして、人が足らなくて、合コン開催のピンチ? だとしたら、レイちゃんの恋路もピンチってことだよね? だったら……場所もファミレスだし時間も早いし、何より幹事が元輝さんなら安心だし……よし。  結論を出した私は、レイちゃんに答えます。 「うん、行ってみようかな」
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