春愁1

2/7

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
 そんなわけで、翌日の水曜日の放課後。  私は沢塚駅のファミレスにやって来ました。残念ながら、間違い探しがないタイプのファミレスです。  授業の都合もあり、合コン参戦者のなかで、私は最後の到着でした。お店の一番大きい長テーブルを占拠する集団に近づくとすぐに、レイちゃんと元輝さんが声をかけてくれます。 「こっちこっち! ハルちゃんお疲れー!」 「ハルちゃん! 鈴奈に付き合ってくれてありがとなぁ!」 「レイちゃんお疲れー! 元輝さんもお久しぶりです!」  元輝さんは、バスケ青年というより野球少年みたいな雰囲気の人。レイちゃんと同じく付き合いの長い彼の左隣に座って、合コン参戦者を眺めます。  女子勢は私以外、レイちゃんと同じ沢塚高校の子。男性陣は派手な人たちばっかり。その派手さに感心していると、近くの席のおにーさんたちに声をかけられました。 「その制服って平藤南(ひらふじみなみ)だよね? ヤバ。ガチの清楚女子じゃん!」 「美人な子来たなぁ! オレも、ハルちゃんって呼んでいい?」 「あ、は、はーい」  うちの高校の制服、なんで特定されているの!?   妙に制服に詳しい男性陣のせいで女子勢が、すん、としちゃいました……ここにいる女の子たちがみんな、『大学生と恋をしたい』って思ってたら、私、すごく場違いだね。  なんともいえない気持ちがこみ上げてきましたが、元輝さんがウーロン茶のグラスを掲げたので、私も同じようにグラスを掲げます。男性陣もみんな、本日はお酒禁止です。 「お前ら、今日来てくれたのは全員女子高生だ。変なことしたら警察沙汰だからな! 前科持ちになりたくなければ大人しくしておけ! じゃあ乾杯!!」  ひっどい乾杯なのに、派手なおにーさんたちはほとんど全員、笑顔でした。テーブルの向こう側にいるおにーさんに、話しかけられます。 「ハルちゃん、そんな可愛いのに、もしかして、彼氏いない?」 「はい、いません」 「マジかよ。ねぇ年上好き? オレ立候補していい?」 「おい、いきなりやめとけって。ハルちゃん引いちゃってっから。あ、ほら、ハルちゃん、サラダきてるよ。ポテトもどう?」 「あ、ありがとうございます」  あー、今、近くにいる男性陣は、ちょっと話しにくいなぁ……でも女子勢はあんまり私に話を振ってくれないし、レイちゃんは隣に座っている松田さんとお話しているし、元輝さんも幹事だから忙しそうだし。  私はきょろきょろと視線を彷徨わせます……あ、端に座っている、銀髪でピアスバチバチのおにーさんは、落ち着いてそうだし、話しやすいんじゃないかな?  自己紹介と雑談を進めるうちに、やっぱり銀髪ピアスバチバチおにーさん――商学部1年生の『そらみねすい』さんは、お話しやすそう、という結論に至りました。  例えば、部活の話から虫の話に発展したときです。 「セミの抜け殻を集めたぁ!? なんで?」 「セミを作ったので」 「え、えぇ……? その、ハルちゃんって、虫、大丈夫なんだ?」 「ほぼ素手でいけますよ」 「すご……でもあの黒いヤツはさすがにキツいっしょ?」 「木島家のヤツ処理係は私です!」  軽く答えたのに、周囲のおにーさんたちの笑顔がなぜか引きつります。 「ハルちゃんが松田さんとそらみねレベルの虫耐性があんの、怖いんだけど」 「なー……オレ、さすがにヤツは絶対ムリ」 「でも、叩けば死ぬからね。ねぇ、そらみね?」 「……そっすね。ヤツらも不死身じゃねぇから」  松田さんに答えるそらみねさんの声は、抑揚の少ない、低い声でした。  そのとき初めて、私は彼の声を認識しました。彼は私に話しかけることはなく、また話題が移ります。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加