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そんなわけで、翌日の水曜日の放課後。
私は沢塚駅のファミレスにやって来ました。残念ながら、間違い探しがないタイプのファミレスです。
授業の都合もあり、合コン参戦者のなかで、私は最後の到着でした。お店の一番大きい長テーブルを占拠する集団に近づくとすぐに、レイちゃんと元輝さんが声をかけてくれます。
「こっちこっち! ハルちゃんお疲れー!」
「ハルちゃん! 鈴奈に付き合ってくれてありがとなぁ!」
「レイちゃんお疲れー! 元輝さんもお久しぶりです!」
元輝さんは、バスケ青年というより野球少年みたいな雰囲気の人。レイちゃんと同じく付き合いの長い彼の左隣に座って、合コン参戦者を眺めます。
女子勢は私以外、レイちゃんと同じ沢塚高校の子。男性陣は派手な人たちばっかり。その派手さに感心していると、近くの席のおにーさんたちに声をかけられました。
「その制服って平藤南だよね? ヤバ。ガチの清楚女子じゃん!」
「美人な子来たなぁ! オレも、ハルちゃんって呼んでいい?」
「あ、は、はーい」
うちの高校の制服、なんで特定されているの!?
妙に制服に詳しい男性陣のせいで女子勢が、すん、としちゃいました……ここにいる女の子たちがみんな、『大学生と恋をしたい』って思ってたら、私、すごく場違いだね。
なんともいえない気持ちがこみ上げてきましたが、元輝さんがウーロン茶のグラスを掲げたので、私も同じようにグラスを掲げます。男性陣もみんな、本日はお酒禁止です。
「お前ら、今日来てくれたのは全員女子高生だ。変なことしたら警察沙汰だからな! 前科持ちになりたくなければ大人しくしておけ! じゃあ乾杯!!」
ひっどい乾杯なのに、派手なおにーさんたちはほとんど全員、笑顔でした。テーブルの向こう側にいるおにーさんに、話しかけられます。
「ハルちゃん、そんな可愛いのに、もしかして、彼氏いない?」
「はい、いません」
「マジかよ。ねぇ年上好き? オレ立候補していい?」
「おい、いきなりやめとけって。ハルちゃん引いちゃってっから。あ、ほら、ハルちゃん、サラダきてるよ。ポテトもどう?」
「あ、ありがとうございます」
あー、今、近くにいる男性陣は、ちょっと話しにくいなぁ……でも女子勢はあんまり私に話を振ってくれないし、レイちゃんは隣に座っている松田さんとお話しているし、元輝さんも幹事だから忙しそうだし。
私はきょろきょろと視線を彷徨わせます……あ、端に座っている、銀髪でピアスバチバチのおにーさんは、落ち着いてそうだし、話しやすいんじゃないかな?
自己紹介と雑談を進めるうちに、やっぱり銀髪ピアスバチバチおにーさん――商学部1年生の『そらみねすい』さんは、お話しやすそう、という結論に至りました。
例えば、部活の話から虫の話に発展したときです。
「セミの抜け殻を集めたぁ!? なんで?」
「セミを作ったので」
「え、えぇ……? その、ハルちゃんって、虫、大丈夫なんだ?」
「ほぼ素手でいけますよ」
「すご……でもあの黒いヤツはさすがにキツいっしょ?」
「木島家のヤツ処理係は私です!」
軽く答えたのに、周囲のおにーさんたちの笑顔がなぜか引きつります。
「ハルちゃんが松田さんとそらみねレベルの虫耐性があんの、怖いんだけど」
「なー……オレ、さすがにヤツは絶対ムリ」
「でも、叩けば死ぬからね。ねぇ、そらみね?」
「……そっすね。ヤツらも不死身じゃねぇから」
松田さんに答えるそらみねさんの声は、抑揚の少ない、低い声でした。
そのとき初めて、私は彼の声を認識しました。彼は私に話しかけることはなく、また話題が移ります。
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