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私を『もったいない』と言ったおにーさんたちから、SNSで繋がろうと誘いを受けました。SNSをやっていない体で断ったとき、レイちゃんが声をかけてくれます。
「ハルちゃん、今日はほんとにありがとね! ねえ、もし気になる人とか」
「ううん、いないよ。それより、レイちゃんと松田さんはどうなの?」
「えー、いっぱいお話はできたかなぁ」
照れ笑いするレイちゃんは、私の嘘にも、視線の先にも、気づきませんでした……空峰さんは、女の子たちと話してる。スマホを持っているから、連絡先の交換中?
「ハルちゃんは二次会行く? カラオケだよ」
「うーん、私は帰ろっかな」
時刻は7時過ぎ。まだ早いので、送ろうと申し出てくれたレイちゃんに、笑って首を振ります。
「レイちゃんは、松田さんと仲良くしとかなきゃ」
大学生と高校生は、普段は接点なんてないのです。気になる人と仲良くなるための大切な時間を、私が奪ってはいけません。
レイちゃんは少し悩んでから、「ありがと」とはにかみました。ふんわりした愛らしい笑顔です。松田さんにこそ、この笑顔を見てもらいたいなぁ。
「よし、みんな出るぞー」
元輝さんの号令に合わせて、お店の外へ。集団を抜ける前に、元輝さんに頭を下げます。
「元輝さん、お世話になりました! 私、今日はこれで帰りますね」
「そうか! 送ってやりたいが……」
お気になさらず、と言う前に元輝さんがパッと顔を輝かせ、「そうだ!」と誰かを呼びつけます。
「おい! お前も帰るんだろ! ハルちゃん送ってくれ」
「元輝さん! いいですって、徒歩10分なんで!!」
必死に訴えたのに、元輝さんは。
「こいつなぁ、明日提出の課題やってないから帰るんだと。提出してもしなくても変わらんのに」
「変わります。なんで俺なんすか」
空峰さんを連行してきたから、私は口をぴたっと閉じました。
「お前以外、みんな二次会に行くからだ! 課題より、ハルちゃんを送るほうが大事だろ?」
「元輝さん!」
とんでもない言い草に、私は声を上げました。ほんとになにを言ってるんですか!?
「遠慮はいらないぞ、夜道は危ないからな!」
元輝さんは空峰さんの肩を叩き、行ってしまいます……な、なんて自分勝手な。元輝さんに心の中で文句を言う私の隣で、空峰さんは、ふっと小さく息を吐きました。
「送る。家どっち?」
「え、課題は」
「大した量じゃねぇ」
……でも、迷惑だよね。ここはやっぱり、ちゃんと断らなくちゃ。
「初対面、ですし……二人きりは、あの、良くないので!!」
なにそれ、と自分の言葉を鼻で笑いそうになります。
私は空峰さんと二人きりでも……別に、いい、よね?
なのに、なんで、さっきから心臓が、バクバクしてるの?
なんでこんなに、緊張してるの?
当然、焦っているのは私だけで、空峰さんは表情を全く変えません。
「それもそうだな。じゃ」
抑揚のない声で言って、彼はスタスタと駅へ歩き出して……ようやく、私は気づきました。
空峰さん、私に興味ないんだ。
私なんて、どうでもいいんだ。
空峰さんの後姿が、どんどん遠ざかります。
彼は、振り返りません。
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