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2-1 5月6日、ショッピングモールと学食にて
☆千春、ショッピングモール
たいへんありがたいことに、私には小学校のときからの親友がいます。
レイちゃんこと白浜鈴奈ちゃんです。お家も近く、レイちゃんとそのお兄さんの元輝さんは、木島家の面々と仲良し。とっても気心が知れているのでした。
「ハルちゃんいえーい! 一週間ぶりー!」
高校は別ですが、結構なペースでレイちゃんと遊んでいます。レイちゃん、すっきりしたショートボブなのはずっと変わらないけど、髪の色はよく変わるんだよね。今日は、金色のハイライトが入ってる!
「レイちゃんいえーい! 髪の色いいね!」
「ありがと、実は昨日染めたんだー。せっかく、ハルちゃんと遊ぶんだし! あ、すぐ電車来るね、行こ!」
今日は、隣の駅にある『湘南モール』というショッピングモールに行きます。沢塚の中高生たちの、代表的な遊び場と言っても過言ではない場所だね。
「ハルちゃん、なに見たい? うちはとりあえず夏服を見る!」
「私は服も見たいけど、まずはノートかな。研究ノート用の予備が切れちゃって」
「オッケー!」
私の趣味のひとつは研究ノート作りだから、ノートは何冊あっても問題ナシ。
暖かくなってきたし、そろそろ『カメムシ発生報告書』や『カエルちゃんと映え』など、各種研究に取り掛からなければ……今年は、穂さんという読者も増えたわけだし!
「そういえば、空峰さんとはどうよ?」
電車に乗ったタイミングで、レイちゃんが言いました。にこにこ、じゃなくて、にまにま、って感じの笑いです。
「順調、だよ」
「空峰さんから『好き』って言われた!?」
「それは、まだだけど」
「まだかぁ。もう二か月なのに」
レイちゃんはとたんに唇をとがらせました。
私の友達の中で、レイちゃんだけが、穂さんの心がほんの少し鈍いことを知っています。
穂さんは、『別に誰に話してもいい』と言うけど、私はレイちゃん以外に、彼のパーソナルな部分を話したくないです……レイちゃんは、私と穂さんが出逢うきっかけをくれた人だから、特別。
「淋しくないの?」
「うーん、でも穂さんは、『私』を大切にしてくれるからねぇ」
私と穂さんの心の温度はおんなじじゃなくて、それが淋しくないかと言われれば……淋しいと、思うときもあるけど。
でも穂さんは、いつも『私』をにしてくれていて、だから耐えられないほどの淋しさを感じたことは、今までないのでした。
「あのねレイちゃん、泥だんごとか虫とかの研究ノートも、穂さんは『子供っぽいからやめろ』なんて言わないんだよ! いつも、私とちゃんと話してくれるの!」
「そこは、評価するけどさぁ」
レイちゃんの表情は、ちょっと柔らかくなりました。
中学のとき、短い期間お付き合いした同級生は、私の趣味とかいろいろ……お気に召さなかったみたいだけど……穂さんは、そんなことはなさそう。
大好きな人と波長が合うのは、とっても素敵なことです。
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