2-1 5月6日、ショッピングモールと学食にて

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「ハルちゃんが幸せそうなら、良かったよ。空峰さん、身長高くてそこそこイケメンだけど、怖いじゃん? 表情筋ガチ死んでるし、ちょっと心配だった」  穂さんは宇宙一イケメンでチャーミング&キュート&クールだけど、そのへんは人それぞれだよねぇ。私は遠い目をしたまま、ちょうど止まった電車から降りました。今日も、駅には人がたくさんです。 「ハルちゃん、よく笑う人がタイプかと思ってた。ねえ、空峰さんって笑うの?」 「笑うよ! 唇の端をね、ちょっと上げるの! とっっても魅力的なんだよ! 年に一回は爆笑するらしいし!」 「ば、爆笑するのが年イチ? ……わからん人だなぁ」  レイちゃんがぽけっとした顔で首を振りますが、私も穂さんがわかりません、そこもまた魅力的なのですけれど。  人の流れる方向に歩いて、そのまま湘南モールに入りましたが、レイちゃんは、まだ不思議そうな顔をしています。  「でも、レイちゃん。松田さんも、結構ミステリアスじゃない?」  私は、元輝さんと同じ大学の3年生で、バスケサークル副キャプテンの、松田さんのお名前を出します――すると、レイちゃんは急に早口になりました。 「松田さんは、空峰さんとはタイプ違うくない? 誰にでも人当たりいいし……人当たり良すぎて、本心わかんないけど」  直接顔を合わせたのは一回だけでしたが、松田さんはたいへん穏やかなおにーさんでした。まさに、レイちゃんが好きになるタイプどんぴしゃり……だけど、あれ?  でも最近は、レイちゃんから松田さんの話を聞かないような?  それとなく探りを入れようとする前に、レイちゃんは「まー、いいんだけどね」と大きな声で言います。 「うち、彼氏できたの! クラスの男子!」 「えっ、そうなのっ!?」  知らなかった!! 早速、レイちゃん彼氏の情報を聞き出しましょう! 「中学は別? いつから付き合ってるの?」 「別だね。家が相模原のほうだし……で、付き合ったのは……先週?」 「めちゃめちゃ最近!」 「そう、マジで最近なの」  レイちゃんは、ニコニコしてるけど……あんまり、声が元気じゃない? 私の気のせい? 「ね、新しい彼氏さんは、セミは素手でいける?」 「あー、無理かなぁ? カナブンでちょいビビってたし」 「カナブンもダメ……?」 「なんで悲しそうな顔すんの!」  肩を揺らして笑うレイちゃんは、いつも通りに見えました。やっぱり、気のせいだったのかも。  後でたくさん話を聞かせてね、と約束して、レイちゃんが好きな服屋さんに向かいます。レイちゃんは、店頭に並んだパステルカラーのスカートを見つめながら、「そういえばさ」と私を振り向きます。 「空峰さん、『可愛い』は言ってくれるの?」 「めちゃくちゃ言ってくれるね。言い慣れてるね」 「やっぱチャラくない?」 「チャラいけどチャラくない! 女の子はだいたい『可愛い』と思ってるだけ!」 「クズじゃん」  レイちゃん、めちゃくちゃ低い声でした。ああっ、誤解だよ! 「えっと、『見た目は気にしない』ってことだよ! 穂さんは平等! 穂さん的には、女の子も犬も猫もカエルもカナヘビもスズメも、みぃんな可愛い!」 「それは気にしなさすぎ! ……でも、わざわざ『可愛い』を伝えるのは、空峰さんなりにハルちゃんのことを考えてるから、かな……?」  頭を抱えながらも、レイちゃんは真理に到達していました。そういうことだよ、と私は頷きます。 「うん、穂さんは……私が喜ぶと思って、『可愛い』を伝えてくれるからね」  穂さんが言う『可愛い』はお世辞じゃなくて……ただ、平熱なだけなんです。彼を実際に知らないと、疑ってしまうのもわかるけどね。 「ハルちゃんが納得してんなら、いいけどさぁ」  レイちゃんがそう言ったとき、私はバッチリ納得していた、つもりだったのです。  それでもやっぱり、トラブルは起きてしまうもの。  付き合い始めて二か月を超えた今月こそが、魔性の月だったのです。 ☆ショッピングモールにて【おわり】 次ページから、学食の穂さん
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