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家族が穂さんを嫌うのは、理由があります。
穂さんが中高、とても荒れていたから。
彼がファッションヤンキーではなく、ガチヤンキーだったから。
『俺は、不良だった。相手を殴って、たくさんケンカして、20回くらい補導された。そういう人間とは、付き合わないほうがいい』
穂さんは、私とお付き合いする前に、ご自身のことを話してくれました。
どうやら彼はご家族と上手くいっていなかったようです。補導の理由も、実際はケンカよりも深夜徘徊のほうが多かったみたい。
ご家族との軋轢が積み重なったせいで、中学校に入った頃には……穂さんの感情は、多くの人よりほんの少し、鈍くなっていた。
心が遠くて。ぼんやりしていて。
『恋』なんて心は複雑でよくわからない。
それでも俺は、千春を心から好きになりたい。
お付き合いするときに告げられた言葉を思い出すと、じたじたしちゃうなぁ。この言葉だけでも、じゅうぶん伝わるよね。
穂さんは決して、体目当てじゃない。
真剣な気持ちで、私と付き合ってくれている。
なのに……ああ、もう!
記念すべき初デートの帰り。
穂さんと二人で帰宅する姿を、姉さんに見られたのが悲劇の始まり。
『なにあのチャラ男、怖い!』と怯えた姉さん、神奈川県警に勤める伯父と従兄に相談。
結果、穂さんの過去とダサいあだ名が発覚し、私の両親に伝わって家族会議勃発。
なんであの日に限って姉さん、帰省してたのかなぁ。
でも、穂さんはきちんと両親に挨拶に来てくれるつもりだったし、結局は同じ展開になっていたかもね。
「いってきまーす」
「必ず9時までに帰ってきてね」
「変なことをされそうになったら、すぐに逃げなさい」
末娘がデートに行くだけなのに、物々しい雰囲気の木島家。
不要な忠告にハイハイと適当に首を縦に振り、沢塚駅へ歩き出します。
今日のスカートは、近所にある咲き始めの藤の花と同じ色。落ち着いた色だし、ちょっと大人っぽく見えるかなぁ?
穂さんは高校で1回留年しているから、大学2年生だけど、もう20歳です。
大人っぽい服のほうが、隣に並んだ時にバランスがいいよね。そんなことを考えているうちに、沢塚駅に到着しました。
土曜だから人が多いけど、穂さんを見つけるのはとっても簡単!
背が高くて、銀髪で、耳元はピアスがたくさんで、夜の渋谷の路地裏が似合いそうなお洋服で、そのうえお顔が整っているからね。
こんなにヴィジュアルが天才では、むしろ見つけないほうが難しいよ?
あ、天才が私を見てる! 天才がこっち来るー!!
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