1-2 4月15日のデートではぜる

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「千春。んなとこでなにしてんだ」 「穂さんに見惚れてました! 今日も穂さんはカッコいいです、天才です!」 「それはありがたいが、普通に声をかけてくれ」  穂さんはとってもクールです。私の言葉にテンションを上げるでもなく、イラつくでもなく、ちょっぴり眉を下げて、唇だけで笑みを作ります。  彼の感情の表し方が大好きな私は、その小さな笑顔にポーっとして、固まっちゃう。そうして、私の硬化が解けた頃を見計らって、彼は爆弾を投げるのです!  「春らしい服だな。かわい」 「わわ、ストップストップ! 褒めるときは予告してください! ()ぜちゃう!」 「ハゼ……? ああ、美味いよな」  あっ、穂さん『爆発』じゃなくて『魚のハゼ』を連想した?  彼は漢字が不得意だから、こういう事故が起こります。可愛いね。 「ハゼ食うのか? ファミレスで間違い探しはしねぇの? ……ハゼってファミレスで出るのか?」  ハゼのまま話が進みます。ファミレスにハゼはいないんじゃないかな。 「ハゼはわかんないけど、間違い探しはしまーす! 今月、まだ一回もしてないんですよ」  ファミレスのメニュー表の間違い探しは、私のライフワークの一つで、ちゃんと研究ノートを作っています。  なんせこの間違い探し、鬼のような難易度で、しかも毎月問題が変わります。研究し甲斐もあるというもの。4月の初チャレンジが穂さんと一緒なんて、嬉しい! 「間違い探しって、意外といろんなファミレスでやってるよな」 「あっ、そこに気づかれるとはさすがですね! 今月はほんとにどこの間違い探しも解いてないので、駅に近いとこにしましょうか」 「わかった。じゃあ、こっから一番近いファミレスに行くか」  ふたりで歩きだしてすぐに、穂さんは「そうだ」と呟きました。 「俺は今から千春を褒める」  ……これはこれで、緊張する。私はごくんと唾を飲み込み、頭を下げます。 「お、お手柔らかにお願いします」 「紫も似合うな。春らしくて可愛い」  うわーお、直球!  飾り気のないまっすぐな誉め言葉に、ぽかぽかと心も体も暖かくなります。私は満面の笑みで、お礼を言おうとした、けど。 「ああ、『可愛い』のは今日限定じゃねぇ。千春はいつも可愛い」  …………だ、誰もそこまで言えとは言ってない。  真顔でとんでもないことを言った穂さんは、私の足が止まったのに気づいて、大きな手を伸ばしてくれました。その手が私の手を包むと、ますます全身が熱くなります。  今日も彼は、当たり前に手を繋いでくれる。嬉しい、大好き。よし、声に出しちゃえ。 「穂さん、大好き」  彼は同じ言葉を返してはくれませんが、拒絶なんてしないと伝えるように、少しだけ握る手に力を込めてくれます。  それがやっぱり幸せで、ファミレスに着いてからも、私はずーっとニコニコ、いいえ、ニヤニヤしていました。  
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