3-4 6月24日は、魔法の日

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★『なにか、魔法みたいな』  喜んでくれると思った。  元気になってくれると思った。  俺は素早くあたりを伺った。校庭や門付近はすごい人だかりだったが、駐輪場はガランと静かだ。たぶん、誰もいない。 「目ぇ閉じて」 「はい!」  千春は目を閉じる。素直すぎるし無防備すぎる。俺を信頼してくれているのはありがたいが、少し心配だ。  腰をかがめる。そうすると当然、千春の顔が近づく。  額も頬も首筋も、日焼けしている。最近、体育祭の練習を頑張ってたからな。今日は、練習の成果が出て良かった。  そっと彼女の頭に手を添える。甘い香りがする。果物みてぇな香り。知っている香りだ。女子がよく使っている制汗剤の香りだと思う。たぶん、ピンクの入れ物のやつ。  千春はまだ、素直に目を閉じている。  彼女の唇はキュッと結ばれていて、この後の展開なんて予想してねぇように見える。    俺はその唇に、自分の唇を重ねた。  重なってた時間は、ほんの一瞬だったはずだ。  千春の唇の感触も、ほとんどわからなかった。 「……え」  だけど、千春にとってその一瞬は衝撃的なものだったらしい。  目を開けた彼女は、本当に呆然と、俺を見ていた。  喜んでいるようには見えない。  むしろ元気を失ってしまったようだ。 「嫌だった?」  間違えた、とまず思う。千春が望まないことをしてしまった、と。  千春は即座に首を振って、指先で自分の唇に触れる。俺の口付けの跡を確かめるように、指先が動く。 「あ、あのっ、いいいい嫌なんてことは、ぜったい、ぜったいなくてっ」  震えた唇から飛び出した声は、しっかりと震えていた。  これは、完全に、俺が間違えたな。 「あ、汗、かいてるし、リップも塗ってないし、その、」  そんなのひとつも気にならなかったけど、千春は違ったんだろう。俺は下手な言い訳みたいに呟く。 「制汗剤の匂いがした」 「そっそそうですか」  千春は顔の下半分を塩飴の袋で覆い、俺を見上げた。  黒目の大きい瞳は、潤んでいる……泣かせちまった?  塩飴の袋のせいで、彼女の顔がちゃんと見えない。  いつも元気よく俺の名前を呼んでくれる、彼女の唇が見えない。
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