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私は、私自信が今すぐ死んでもいい、寧ろ何故生きているのか分からないと常日頃思っている。
だが、周りの人間が「死にたい、消えたい」と言っていたら、すかさず私は「そんなこと言わないで欲しい。貴方は必要な人間だよ」と手を差し伸べ、抱きしめてあげたいと思う。
もちろん、それが今、大好きな大切にしている先輩達がそんなことを急に言い出したなら、寧ろ自分が泣き出してしまうだろう。
いつ頃だったか、泣いている彩香さんの横顔を見てしまったのは。
丁度御手洗に向かった時、彩香さんとすれ違いざま、うっすらと頬を赤らめ、潤んでいる目をしていたのが見えてしまった。
藪から棒に見てしまったという罪悪感と、綺麗な横顔に見惚れてしまった私がいた。
そんなことを考えてしまう自分に苛立ち、殺してしまえるなら殺してしまおうか、と思ってしまう。
そうやって自分の心を抉るのが癖なのだ。
そんなことを考えつつ、今日も上司に影で虐められ、心を憤怒の色に変え、エネルギーにして仕事をしていると、いつのまにか夕日も隠れて、終業の時間になった。
(やっと帰れる…)
心の中で悪態をつくように呟いた。
ボケっとしている私の隣、彩香さんはいつも通り、「お疲れ様でした」なんて優しい笑顔で私に向き直る。
すれ違ったあの時を思い出す。邪な気持ちが無いとは言えないが、何故彼女があんな顔をしていたのが気になった。
私は一言、
「彩香さん、一緒に帰りませんか?」
と声をかけた。いつも何も言わずに一緒に帰ってるのに、今日ばかり声をかけてしまい変か?と思ったが、彩香さんはいつも通り、
「勿論、一緒に帰りましょう」
と優しく返答した。
街灯が明るく照らす歩道を、2人並んでなんてことない話をしながら駅へ向かっていた。
手を繋いでいるカップル、買い物帰りの親子、部活帰りの学生、私たちと同じように仕事が終わったのであろう、帰宅につくサラリーマンたちを横目に歩く。
次第に話すこともなくなり、もうすぐ駅につくころ、彩香さんが重い口を開いた。
「最近、消えたくて」
ポツリと。
「自分なんかいなくなっちゃえばいいのに、って思うんです。最近、仕事がとても辛く感じて。やってもやっても終わらないし、上司はあれやれこれやれって指図するだけして、自分は不機嫌オーラを出してるし、それが、とてつもなくプレッシャーで。」
私は黙って聞いていた。
「だから、死にたくなっちゃって。でも、そんなこと出来ないから、山根さんに以前教わった曲を聴いて、泣いて、紛らわせてたんです。でも…。すみません、こんな話、山根さんにしちゃって。」
「彩香さん…」
かける言葉が見つからない。死んで欲しくない、消えるなんて言って欲しくない、貴方が死んだらどれだけの人が悲しむだろうか。
そんなこと言ったところで。
考えていても、きっと彩香さんが思うような回答はきっと出来ない。
それならば、自分が今思ったことを言ってしまおう。そう、小さく口を開く。
「彩香さん、私と一緒に、戦いましょう。あと異動発表まで1ヶ月です。きっと、異動できるから。だから…お願いだから…。死なないで…ください…。私の隣にいて、欲しい、です…」
気がついたら私は泣いていた。なんて大馬鹿野郎だろう。泣きたいのは彩香さんなのに。
その日はお互い黙って帰路についた。
約1ヶ月後、お互い人事異動で新しい部署へ異動することが出来た。
私も前の部署では散々虐められていたので、新しい部署に異動できて、今はとてつもなく幸せだ。
彩香さんも、新しい仕事に戸惑い大変そうだけれど、前よりも余裕は出来てきたみたいだ。
あれ以降、死にたい消えたいと言ったりすることは恐らく無くなったと思う。
彩香さんが、いや、彩香さんでなくても、見ず知らずの他人が、「死にたい、消えたい」と言ったら、死んで欲しくない、消えて欲しくないと泣いて訴えるだろう。
じゃあ私が私に対しては?
毎日死にたいと思っている。
毎日消えてしまえたらって。
貴方の傷を私が変わることが出来たら。
彩香さんや、仲良くしてくれる先輩はいる。
先輩達の記憶に、自分が居なくなって欲しいとは絶対思わないし、寧ろ覚えていて欲しいと思っているが、それでも私は消えたいと思っている。
誰かが、無償の愛をくれたなら。
生まれてからずっと歪まずに生きてこられたなら。
きっとそんなことに悩む日は、無いとは言わないが多少であったろう。
そんなことを毎日考えながら、私は生きている。おそらく、これからも、生きていく。
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