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進路
高三になり、進路を考える時期がきた。
クラスの半数は東京の大学を志望した。志延も東京の私大を志望したが、母が反対した。
「どうして? 模試の結果もいいよ」
志延の高校から毎年数名しか合格しない難関大学だったが、担任にも合格確実と言われた。
「東京は駄目よ」
地元の短大に通うか、今は叔父が継いでいる会社に入って働くことを提案された。
「どうして? なぜ東京は駄目なの?」
志延は食い下がる。
いつか地元に戻るにしても、若いうちに一度は東京で生活してみたかった。経済的に無理というわけではないはずだ。
しかし、母は頑なに認めようとしなかった。
「卒業したら、戻ってくるから」
「就職は戻って叔父さんの会社に入る」
いろいろ言ったが母は首を縦に振らなかった。
「どうして駄目なの?」
「あなたはここを離れてはいけないの。延幸さんがこんな状態なのよ。この家はあなたが継いで、婿養子をもらわなければならないの」
父が遺した会社は一族経営だ。志延が婿を取った暁には、婿も経営陣に加わることになっていた。
「それはわかるけど、でもまだ結婚は早いでしょ?」
引き下がらない志延を母は真っすぐ見た。
「エンメさんはどうするの? あなたはエンメさんのお勤めがあるでしょ」
母は言った。
(ああ、それか……)
志延は愕然とした。
(結局はそれなんだ。自分はこの家や兄から離れられない)
こんな話し合いとも言えない話し合いを繰り返し、志延は自宅通学が可能な専門学校への進学を決めた。
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