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 昔、ケンカで相手に重傷を負わせて病院送りにしたことが何度もある。  どこからかそんな噂が流れてきて俺は余計に周りに怯えられるようになってしまった。もちろん一人を除いて。 「その、噂も、マジ?」  今日の体育はマラソン。  ジャージで校庭の周りを走りながら神田が言った。 「まぁ嘘ではない」 「おま、ちょーヤンチャ、じゃん!悪い、奴だなー!」 「息きれすぎじゃね?歩く?」 「良い奴だ!うん、歩こう!」  俺も走るのは面倒だから嫌いだ。  俺たちは開始10分で徒歩に変更した。 「俺走るの嫌い、そもそも体動かすの苦手」 「だろうな、ひょろひょろしてるし」 「宮地が歳の割りにでかすぎるだけだよ、何食ったら180越えんの?ムカつくんだけど」 「遺伝かな」  そう言うと背中をバシッと叩かれる。  息が切れてる割りには結構力あるな。 「おいあの転校生今宮地のこと叩いたぞ!」  後ろをちんたら走るやつらの声が聞こえてくる。 「あいつ殺されんじゃね?明日には学校来なかったりして」 「まじであり得そうでこえーよ」  聞こえてんだよの意味も込めて睨み付けると「こっち見てる!」「やべ!」と目をそらす二人。さっきまでゆっくり走っていたくせに俺と神田をものすごい速さで追い越して行った。 「何俺いまからボコボコにされんの?」 「しねーよアホか」 「良かった、てか腹減ったー、俺朝食ってない」 「あ?それで走れるわけねーだろ、ぶっ倒れても運んでやらねーぞ」 「ええ、そこは運んでよ、宮地くらいマッチョなら俺くらい余裕でしょ」 「まぁな、負荷にもならないな」 「まじでお前……」  お、なんだ?怒ったのか?と顔を窺ったとき「お前ら歩くなー」と先生の声がする。仕方なく再び走り出すと神田が隣で「あーやば、」と言うので「吐きそう?」と聞くと次の瞬間べしゃ!と地面に倒れこんだ。 「は?」  冗談ではない状況に直ぐ様抱き上げると意識はあるようで神田は「くらくらする」と小さな声で言う。 「朝飯食ってないからだバカ野郎」 「おい!大丈夫か?」教師が駆け寄ってくる。 「多分貧血、このまま保健室連れてくわ」 「頼んだぞ」 「おう」  横抱き、所謂お姫様抱っこで校舎に入る。  よいしょと体勢を整えると神田の両腕が俺の首に回り、そのままぎゅっと抱き付かれる。 「落とさないで」 「落とすかよ」 「……まじごめん」 「いいよ別に、寧ろ授業サボれてラッキー」 「悪い奴め」 「運んでやってるんだから良い奴だろ」  保健室に着くと保険医にベッドは誰も使ってないから好きな所で寝てていいよと言われる。好きな所ってラブホじゃねぇんだからと思いながら、何となく真ん中のベッドに神田を下ろそうとすると俺の服を掴んで「窓側がいい」と言った。 「はいはい」 「ありがと」  要望通り窓側のベッドに下ろす。  カーテンの向こうで保険医が「貧血ならチョコレート食べる?」と言うので神田よりも先に「食べる」と俺が答えた。  チョコレートを神田に渡して自販機で水を買ってきてやると、神田はすでに上体を起こしていた。 「チョコレートうまい」 「良かったな、はい水」 「ありがとう……俺の彼氏まじ有能」 「そのネタまだ続いてんのか」  鼻で笑うと神田も少し笑った。  チョコレートと水を口にしてまた横になった神田は閉じていた目を開けて布団を捲る。 「一緒に寝る?」 「寝ない」 「残念」  何が残念だ。神田は楽しそうに笑っていた。
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