俺の友達

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「宮地ー!お前の家ヤクザってまじ?」  クラスメイトの神田 薫が言った。 「……まじだけど」  嘘を吐いてもそのうちバレそうだなと思って肯定すると、神田は目をキラキラさせて「すげー!」と笑った。  相変わらずバカっぽい笑顔だ。黙ってればモテそうな見た目をしているのに、口を開くと能天気な性格だとすぐにわかる。俺がカタギならヤクザの息子となんて友人になりたくない。  隣の席に座った神田は「じゃあさじゃあさ」と楽しそうに言う。  俺は頬杖をつきその様子を見つめた。 「やっぱりこわーいおじさんとか家にいるの?」 「お前の言うこわーいってどういう?」 「そりゃ刺青入ってたり、銃で撃たれた痕があったり」 「はは」 「ははってなんだよ、教えろよー」  肩を揺すられる。 「つかお前誰に聞いたんだよ、うちがヤクザだって」 「うーん、誰だろ?俺転校してきたばっかでまだ名前とか全然覚えてないんだよね」 「顔とか覚えてねーの」 「顔は覚えてるよ!眼鏡かけてた!」 「アバウトだな」 「たしかほっぺたに黒子があったよ、なんて言ったかなぁ、か……か、」 「金子か」 「そう!金子くん!お前すごいな、パッと名前出てくるの」 「眼鏡に頬の黒子、"か"から始まる名字はうちのクラスには金子しかいないからな」 「へぇ、意外と名前とか覚えてんだな!」 「転校生のお前よりはな。で?その金子が俺のことをお前に言ったんだな?」 「そうそう、あいつの家はヤクザだから気を付けた方がいいぞーってな」 「ふうん」  余計なことを言ったのはアイツか。  教卓の前の席の背中を睨む。  金子舜。優等生ぶっているが煙草やら酒やらやりたい放題なのを俺は知っている。  表面はいいが腹の中は何を考えているかわからないそんな奴だ。一度脅しといた方がいいか。 「顔こえーよ、俺の神田きゅんに余計なこと吹き込みやがってーって感じ?」 「あ?自惚れんな」 「もう素直じゃないんだからぁ」  「このこの」と肘で脇腹を突くような仕草をする神田。  俺の家の噂を聞いてもまったく態度を変えない友人に内心嬉しく思っていると、それが分かったらしく神田はニマニマ笑いながら机と椅子を寄せてくる。 「なんだよ」 「いいじゃん、今日一日こうしてようよ」 「ホモカップルかよ」 「嬉しいくせに」  一限目の授業が始まる鐘が鳴り、教室に生物学の教師が入ってくる。  神田が小声で「宮地ぃ」と甘ったるい声で呼ぶから横目で見ると「教科書見して」と両手を合わせた。 「最初からそれが狙いか」 「お願い」 「……まあいいけど」  こいつに頼られると悪い気はしないから腹が立つんだよな。今度教科書忘れた日には金とろうかな、そう思いながら教科書を真ん中に置いた。 「ありがとダーリン」 「いいよハニー」  なんてふざけ合っていたせいで"あいつらは付き合ってる"と噂を流されてしまい、余計腹が立つのであった。
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