ナイモノサガシとクリカエシ。

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 ***  件の大統領の独裁によって、陰で暗殺された人間は数知れない。  外国人がスパイと間違われて逮捕され、裁判もなしに処刑されるケースも後を絶たない。  そして大統領と一部の裕福層のみが豊かな生活をし、多くの庶民は食べる者着るものにも困って飢えてガリガリに痩せて死んでいくという状況。長らく世界的に、かの国の状況は問題視されてきたのである。  つまり。大統領の言葉に目をつけたのは、金や名誉に目がくらんだものばかりではない。  大統領の地位と資金を手に入れ、かの国の人々を救いたいと考える人権団体の者達にとっても同じであったのだ。 「あの大統領の所業は、到底許しがたい。できれば、きちんと法の裁きを受けさせ、処刑台に登らせてやりたかったんだけどな」  僕の目の前で、アンドレアス、通称“アンディ”はふんっと鼻を鳴らした。  僕も彼も、世界人権保護機構のメンバーである。世界中を周り、人権侵害を受け、虐げられている人々を救うのが僕達の仕事だった。時には紛争地帯に行って救援物資を届け、水道を整備する手伝いをし、医者の手配をしたり人々の看病を手伝ったりする。時には大災害で被災した人々を保護する施設を作って炊き出しをしたり、情報収集を行って世界に発信したりする。  その活動内容は広く、多くの国の枠組みを外れた超法規的措置を受けられる組織としても有名。どんな宗教、どんな国に対しても中立。ただし、人権侵害や犯罪に加担する国や組織には一切与さない――というのが自分達のスタンスなのだった。  現在はあの大統領のA国とは敵対関係にあるB国に本拠地を置き、こうして会議室で次の作戦についてミーティングをしているというわけである。 「あのイカれた大統領も、最後にチャンスをくれたってなわけだ。……あいつの要望通り“なくなったもの”を見つけてやれば、奴は引退してそいつに大統領の地位をくれる。ついでに資金もくれる。それがあれば、あの国を根本から変えることだって可能なはずだ。正しい民主主義国家にすることだってできるだろうさ!」 「そうだね、アンディ。でも……簡単なことじゃない。大体、なんであの大統領があんなことを言い出したのかが謎だ」  僕はパソコンで資料を打ちだしながら言う。 「例の大統領は、もう五十年も独裁政治を続けてきた生粋の独裁者。二十代で大統領になって以来ずーっと大統領として、めっちゃくちゃな政治を続けてきたわけだ。そして、邪魔する奴はみんな言いがかりつけて殺してきた。自分の地位を脅かすかも?国の思想をちょこっと批判したかも?程度の人達もまとめてさ。……そんな男が、今更地位を他人に譲ろうとするのがまずおかしい」
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