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『暗闇の中に浮かぶ紅い光 星々は眩く照らされ輝いて♪』
『かつて輝く星の成れの果て 星屑は今も蒼くこの宙を照らしてる♪』
『光さえ吸い込む無限の黒 吹き出す煙は次なる希望♪』
「八雲君、これは……?」
「彩海の、歌です」
スマホに残っていた彩海の歌をメロディと歌詞に分けて信号化し、録画日に観測されていた電波のデータと付き合わせた。いわば、彩海の歌をロゼッタ・ストーンとして電波を歌に翻訳した。
そのパターンを元に、彩海がいなくなった後に観測された電波を翻訳してみたところ、ちゃんと意味を持った歌として翻訳で来た。
「彩海さんって、行方不明になった八雲君の友だちだっけ。いったいどういうこと?」
「俺にも、何が何だか……」
続いて、二十年程前に初めて観測された電波を翻訳してみる。
『さあ我々と行こう まだ見ぬ宙の先へ』
先程とはまるで違うトーンの歌。
その歌に、荒唐無稽な想像が浮かぶ。
行方不明になった彩海が宇宙を旅しながら歌っている。それが電波となって、地球に届いていた。
そんなことはあり得ない。常識がその妄想を否定している。
それに、もしそんなことが起きたとしたら、電波が届かなくなったということは。
最悪の可能性に頭がガンガンする。それでも、最後に観測された電波を彩海の歌で翻訳する。さほど時間が掛からずに電波は歌に訳され、震える手で再生ボタンを押す。
『蒼く浮かぶ水の星 また会えたら何を歌おう まずはいつものあの場所へ』
「行かなきゃ」
「ちょっと、八雲君?」
「瑞穂さん。俺、行かないと。彩海が待ってる」
*
高校時代と同じ焦燥感に駆られるままに、研究所から車を走らせた。
車で二時間ほどで故郷の町に辿り着くと、そのまま山の中へ向かう。それはまだ彩海といたころ、時々来ていた秘密の場所だった。
十五年前、彩海が失踪してから何度も来た。だけど、何度来ても彩海の痕跡は見つからなくて、最近では訪れることも無くなっていた。
当時より少ししんどい思いをしながら、かつて彩海と何度も通ったあの場所を目指す。
街中がよく見えるだけの、何もない場所のはずだった。
何もないはずの場所に、見慣れないものがあった。
光る竹のようなもの。だけどその太さは数百年生きた巨木のようだった。
導かれるように光る何かに触れる。
「……っ!」
触れた途端、その何かは光る粒となって空へと消えていった。
光の粒が全て溶けた後、その場に残っていたのは。
「彩海っ!」
十五年前と殆ど変わらぬ姿の彩海が横たわっていた。
急いで抱きかかえると、その身体は温かい。胸元がゆっくり上下していて、ただ眠っているだけのようだった。
何が起きているのか、理解が追い付かない。だけど確かなのは、ずっと探してきた存在がようやく見つかったこと。
「んっ……」
抱える手に力を込めると、微かに彩海が身じろぎした。
そして、ゆっくりとその瞼が開かれる。彩海は何度か瞬きした後、ふわりとあくびをしてみせた。
「んんー。おはよ、八雲」
「ああ……ああ、おはよう。彩海」
「何だか随分長いこと寝てた気がするかも。一年くらい寝てたりして」
寝ぼけ眼のまま、彩海が小さく舌を出す。
彩海は冗談を言っているつもりなんだろうけど。
「ばかやろう。十五年ぶりだ」
思っていたより小柄な彩海の体を、二度と話さないようギュッと抱き寄せた。
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